米中関係の戦略的考察

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 佐藤丙午

中国共産党の100年
 中国の歴代王朝の交代において、新たな「王権」が確立する過程にどれだけの時間が必要であったか、詳細な研究成果を見たことはないが、一定の移行過程があったことは想像に難くない。その意味で、清王朝が崩壊し、その後の中華民国や満州国の樹立、さらには内戦期を経た後に中国共産党が「王権」を確立するまでの移行期過程を見ることができたことは、貴重な機会であったと考えるべきだろう。同時に、新王朝が成立し、その権力基盤が固まるまでの過程を見ることができたことも、国際社会としては貴重な経験であった。
 少なくとも現時点で評価する限り、中国共産党は100年の時間をかけて「偉大なる中華民族の復興」を成し遂げつつあると評するのが正しいのかもしれない。2010年代には世界第2位の経済大国へと成長した中国は、共産党の指導の下、2030年代中葉には米国を抜いて世界第1位の経済大国になると予想されている。中国の台頭を警戒し、その混乱や停滞を期待する人は国際的にも多いが、中国共産党の指導の下に達成した現在の国際的な地位や経済的繁栄を無駄にしても良いと考える中国人は少なく、多少の問題が存在したとしても、国民の多くは国家としての統一性を維持することに利益を感じるだろう。
 但し、共産党の元での中国の統一性には、幾つかの矛盾を孕む。そしてそれが、中国の対外政策に対する周辺国の評価を迷わせ、対抗措置のブレを産んでいる。「新冷戦」と形容される現在の米中関係にも、その影響が及んでいるのである。
 
共産党支配の抱える矛盾
 共産党政権の下での中国の抱える矛盾は、第1に、共産主義のイデオロギーと「中華民族主義」の齟齬である。中華人民共和国は、漢民族を中心とした国民国家なのか、それとも共産主義国家なのかという問題は、中国建国以来の重大な関心事であった。イデオロギーの面から忠実に社会主義国家のあり方を考えると、多民族社会は必然的に民族間の階層を産むため、社会主義国家では一民族一国家が基本的な原則になる。
 中国は多民族国家であるが、漢民族の比率が9割に近い。中国はその意味で、漢民族中心の国家になるのは理解できる。但し、歴史的に見ても、漢民族が形成する国家の存在理由や基盤構造は明確ではなく、それが共産党支配である必然性もない。従って、共産党が中国の国家構造において指導的地位を維持する理由は脆弱である。その意味で、経済発展の成功が中国を結束させるという指摘は正しく、現在の中国経済の状況を維持できなければ、共産党が統治の正当性を失う可能性も否定できない。