大国間競争の「対中シフト」恐れる中国

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産経新聞客員論説委員 湯浅博

はじめに
 独裁体制の確立を目指す中国の習近平国家主席は、すべての国際情勢に対して、国内の権力固めに適正か否かで動かしている。外交、貿易、情報技術、価値観、そしてスポーツに至るまで、中国の効率の良い強国独裁が、アメリカの賑やかな民主主義と互角か、それ以上のイメージでなければならない。従って、「大国間競争」の主敵であるアメリカに対しては、常に優位に立っているとの証を示す必要がある。
 習近平主席はその優位に立つ勢いを追い風に、11月の「第19期中央委員会第6回総会」(6中総会)で3期目続投に向けた人事を打ち出し、来年秋の「第20回中国共産党大会」で長期政権の確立に挑む。内外すべての政策が、この路線に合致するよう下達され、或いは下僚によって忖度されていく。
 先にアメリカに亡命した元中国共産党中央党学校教授の蔡霞氏によれば、中国共産党は70年余りに亘り、共産党支配の強化と体制崩壊を防ぐことを最優先に、内政と外交を「1つの統合ゲーム」として扱ってきた。習近平外交は内政問題の延長線上で動き、それが権力を維持するための道具と見做される(蔡霞「中国共産党の目から見た米中関係―インサイダーの視点」米スタンフォード大学フーバー研究所)。
 この夏、米中覇権争いをめぐる国際的な一大事は、「アジア正面」の東京五輪・パラリンピックのメダル獲得競争とその波及効果であり、「アジア背後」の新疆ウイグル自治区で国境を接するアフガニスタンの大変動であった。ともに習近平体制の権力維持にとっては、無関係であり得ない。東京五輪は、それに続く来年2月の北京冬季五輪へのボイコット論をアメリカに目覚めさせたし、アフガンからのアメリカ軍撤退とイスラム原理主義政権の誕生は、中国内陸部の不安定要因として北京を揺さぶった。
 しかも、イスラム原理主義勢力タリバンが首都カブールを奪還していた頃、東アジア海域では、アメリカ海兵隊の25,000人が海軍とともに、西太平洋の島々の奪還を想定した軍事演習を行っていた。演習には、アメリカのほか日英豪の海軍も参加しており、米紙ウォールストリート・ジャーナルは「冷戦後、最大級の合同軍事演習」と論評していた。
 「20年前にアフガン戦争を開始してからアメリカ軍の関心がどれほど大きく変化したかを示すもの」と、アメリカの対中シフトを論評した。現実を直視する中国の戦略家は、アメリカのアフガン撤収は、戦略的な優先事項を中東からインド太平洋に向けるため、混乱を覚悟のむごい決断だったのではないかと見ている。