アフガン政権崩壊を巡る米国内の議論の現状

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JFSS政策提言委員・元海自佐世保地方総監(元海将) 吉田正紀

はじめに
 本誌前号(Vol.89)では、バイデン政権の「中産階級のための外交」というキャンペーンに象徴される「3つのリンク」、即ち、①「内政と外交のリンク」②「国内投資と安全保障のリンク」③「国内投資と対中国競争のリンク」は非常に巧緻な戦略であり、コロナワクチンの驚異的接種スピードとも相俟って、予想よりも早く米国は復活するのではないかという希望的観測を述べた。その後、前者のコロナワクチンの接種スピードは共和党州と若年層を中心に頭打ちとなり、更に各国と同じくコロナ変異種による感染の再拡大という要因もあり、7月4日の独立記念日を「コロナとの戦い」に勝利した日として全米で祝うイベントにしようというバイデン大統領の目論見は達成出来なかった。
 しかし、後者のバイデン政権国内政策の目玉であり、「3つのリンク」戦略を可能とするインフラ投資法案は、予算規模こそバイデン大統領の当初案の半分程度に留まったが、この政治的妥協により上院では19人の共和党議員が賛成票を投じた「超党派」法案として、8月10日(火)に69対30票で可決された。更に、もう1つの目玉法案である、家族支援インフラ投資予算のガイドラインを提供する今後10年間の予算共同決議案も18時間の審議を経て、翌日の11日午前5時、これを50対49票で可決することに成功した。
 こうした上院の成功を受けて、下院も当初の予定を変えて23日(月)、24日(火)の2日間だけ招集され、上院が11日に可決した予算共同決議案を220対212票で可決した。民主党のナンシー・ペロシ下院議長(カリフォルニア州)は同日、上院で8月10日に可決された約1兆ドルの超党派インフラ法案を9月27日までに採決するとの声明を発表した。また、上下両院が予算共同決議案を可決したことにより、夏季休会明けの9月13日、議会がワシントンD.C.に戻ってから上下両院が総額3兆5,000億ドルの家族支援インフラ投資予算和解法案に取り組む準備が整った。こうした堅調な議会の動きにも拘らず、バイデン大統領の支持率は漸減傾向を脱却できず、中間選挙を約1年後に控えた政権中枢(インナーサークル)が拘ったのは、不発に終わった独立記念日の「コロナとの戦い」の勝利宣言に替えて、9月11日の対テロ戦争20周年のイベントでの、「アフガニスタンにおける対テロ戦争」の終結宣言であった。