規制と統制を強める中国政府

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政策提言委員・経済安全保障アナリスト 平井宏治

 米国と中国の対立は、ますます先鋭化し、我が国も立ち位置を旗幟鮮明にすることを迫られていることは、過去の季報でも指摘した通りである。
 鄧小平以降、中国は、改革開放路線を掲げ、世界の工場としてグローバルサプライチェーンに組み込まれた。しかし、2016年以降、米中関係は悪化した。
 中国は改革開放路線を掲げ、西側諸国から開発機能や製造機能を積極的に呼び込む一方で、軍民融合政策に基づいて西側諸国から軍民両用技術を窃取し、智能化(ハイテク)戦争に備えた兵器の近代化を進めた。軍民融合政策とは「中国共産党が人民解放軍を世界クラスの軍に発展させるため、民間企業を通じて外国の技術を含む重要・新興技術を取得・転用する戦略」(米国国務省)のことだ。中国は不透明な軍拡を続け、中国の意図を認識した西側諸国は、中国を警戒し、軍民両用技術や機微技術の窃取を防ぐための法令整備が進んでいる。
 中国が力による現状変更の意図を隠さなくなったのは、習近平が総書記に就任して以降が顕著である。中国では軍民融合政策に歩調を合わせるかのように、独裁者に奉仕する法律が次々と成立し施行された。その代表的なものは、①有事には、日本企業の在中資産接収や知的財産権の無断使用を可能にする国防動員法 ②あらゆる中国の法人、個人に国家の情報活動への協力を義務付ける国家情報法 ③反中国の行動をした企業や個人を記載し恣意的濫用が懸念される中国版エンティティ・リスト(ブラックリスト)、中国との共同研究や合弁会社で開発された我が国由来の技術に使用制限をかける輸出管理リストと輸出規制や再輸出規制、みなし輸出規制やみなし再輸出規制を定めた輸出管理法 ④中国の判断で外国に制裁することを正当化する反外国制裁法などだ。これらの法律を読めば、中国が「改革開放」政策を「統制と規制」に転換したことは明らかだ。
 中国共産党の理論誌「求是」によると、昨年4月、習近平総書記は「産業の質を高めて世界の産業チェーンの我が国への依存関係を強め、外国による人為的な供給停止に対する強力な反撃・威嚇力を形成する」と指示したと報じた。世界の工場になった中国は、経済的影響力を用いて、諸国を跪かせようという意志を隠さなくなった。モノのインターネット時代を迎えて、隠しコマンドが仕込まれていない安心安全な半導体や通信機器を使用する重要性が見直され、サプライチェーンから中国を除外する動きが本格化している。このような直近の状況を踏まえて、本稿では、最近の中国政府の動きを紹介し、我が国の取るべき方向を考えたい。