はじめに
中国の秘密結社の歴史は古く、中国社会とは切っても切れない関係である。
秘密結社は、「会党(フィダン)」もしくは「教門(ジャオメン)」と言い、「会党」は義兄弟の契りを結んだ男たちのネットワークを基本とし、ひとたび義兄弟となった相手が危機に直面した時は命を懸けて守ることとする。「会党」はそうした男たちの相互扶助の社会である。
この「会党」には、18世紀の清朝後期から中華民国期にかけて活動した「洪門(ホンメン)」(秘密結社の総称)の「天地会」、「三合会」や「哥老会(かろうかい)」(その後天地会と合流し「紅幇(ホンパン)」とも言う)、「青幇(チンバン)」(清代初期の大運河の荷役労働者の自衛的団体が源流)などがある。これらの秘密結社の一部は、アヘン、売春、賭博などを業として、後の黒社会(チャイニーズ・マフィア)になっていった。黒社会には、上海を拠点とする「上海幇(シャンハイバン)」、香港を本拠地とする「14K」(「三合会」の主要組織、中国国民党が作った反共組織「十四会」を祖とする)、「和勝和(ウォシンウォ)」(戦時中日本軍と協力して勢力拡大、「三合会」最大勢力、構成員約3万人)、「新義安(サンイーオン)」(「三合会」の主要組織)、「和字頭」(和勝和の上部組織、香港の労働者自助グループが祖)、台湾を本拠地とする「洪門天地会」、「台湾三合会」、「青紅幇(チンホンバン)」、「竹連幇(ジュリェンパン)」(台北市を拠点とする台湾の三大ギャング組織の1つ、構成員約15,000人)などがある。
「教門」では、元、明、清の時代にしばしば大反乱を起こした「白蓮教(びゃくれんきょう)」が有名だ。「白蓮教」は、仏教の浄土思想と光と闇の二元論を唱えたマニ教が混淆したとされる民間宗教である。「白蓮教」は、その後、「義和団」を生み出して清朝末期に騒乱を起こし(1899年中国山東省で起こった反キリスト教暴動、連合軍が出兵して鎮圧、日本では「北清事変」と呼称)、さらに農村の自衛武装組織「大刀会」、「紅槍会」を生んだ。また、「太平天国の乱」(1851年~1864年、清朝打倒を唱えて各地で革命運動を展開)を起こしたキリスト教系の「拝上帝会」も「教門」の例である。
そして第3に「政治結社」がある。「政治結社」は、政党などのように政治上の目的のために運動する団体のことである。辛亥革命前に孫文が組織した「興中会」、「中国同盟会」(1905年、東京で300名を集めて結成)、同じく孫文が結成した「中華革命党」(中国国民党の前身)、結成当時の「中国共産党」などが挙げられる。