第2回
「台湾有事研究会発足への思いと政策シミュレーション準備」

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顧問・元陸上幕僚長 岩田清文

 前号の佐藤研究員のエッセイからバトンを受け継ぎ、今回は台湾有事研究会発足への思いを綴りたい。
 正式な国交がないとの理由からか、或いは北京からクレームが来るのではという憶測からか、防衛省・自衛隊には、台湾問題は公的には触れない方が無難という雰囲気が長く続いている。1972年の日中国交正常化以降、約50年間続いたこの公的関係の空白状態は、台湾が日本防衛に極めて重要な位置付けにあるにも拘わらず、自衛隊と台湾軍との交流さえも閉ざしてきた。結果、台湾軍がどれほどの実力を持ち、中台紛争生起時においては、どのように戦い、どの程度持ち堪えられるのかを理解している現役自衛官は殆ど存在しないであろう。ましてや我が国の南西諸島に戦火が及んできた時に、日本政府と台湾総統府、或いは自衛隊と台湾軍がどのように連絡・調整するのかさえも定まったものは存在しない。台湾空軍と航空自衛隊とのホットラインさえもなく、まさに我が国防衛における真空領域といっても過言ではない。
 この問題意識も含め、法を無視して覇権拡大という自己陶酔の夢に突き進む中国の脅威認識を多くの方々に共有してもらうため、2019年12月に『中国、日本侵攻のリアル』(飛鳥新社)を発刊した。執筆の中で、南西諸島有事のシナリオを思いめぐらす中、好むと好まざるとに拘わらず「台湾有事は日本有事」になってしまうこと、そして日本の対応が不十分であった場合、尖閣諸島は勿論、与那国島も戦わずして中国に占拠されるという最悪の事態が脳裏に浮かび上がった。
 書籍発刊後、多くの反響を頂いたものの、具体的な政策に結び付くには、まだまだ不十分、道はるか遠しという現実に悶々としていた昨年の秋、JFSS事務局の長野禮子さんと、この問題意識を共有する機会があった。日台の安全保障問題をもっとリアルに進めるためには政治家の協力が不可欠であると同時に、危機迫る現実に対する国民の意識を更に啓蒙すべく、民間のシンクタンクとしてできる事をあらゆる角度から模索した。人は1人では何もできないが、志を同じくする仲間が集まれば何か出来るとの思いで、『令和の国防』執筆メンバーである同期の武居元海幕長始め、兼原同志社大学特別客員教授、尾上元空将を巻き込み、加えて村井東京国際大学特命教授に協力をお願いして、5名のコアメンバーを形成した。