バイデン政権の発足からもうすぐ1年が経つ。同政権が置かれている状況を一言で言い表せば「内憂外患」ということであろう。但し、ここで言う「内憂」は、「外交」に対する「内政」の問題ではなく、民主党内の左右対立を指す。「外患」は、政権奪還を目指す共和党からの攻撃である。
本稿では、まず、米国内の状況について概観するとともに左派に引きずられる民主党の状況(分断の政治)や「トランプ党」と化した共和党の強みと問題点について考えたい。そして、2022年の中間選挙及び2024年の大統領選挙に向けての注目点を整理したい。併せて、外交面に目を向け、トランプ政権と異なる点、変わらない点について考えたい。
1.深刻化する米国社会の分断
《概観》
いきなり私事で恐縮だが、筆者は、米国で生活したことが3回ある。首都ワシントンの公立小中学校に通った1954年~61年、在米大使館に勤務した1983年~86年、それから総領事としてマイアミに駐在した1998年~2000年である。また、2010年の外務省退官後も様々な用務で米国各地を訪問した。1950年代においては、南部で今では考えられないような露骨で醜悪な黒人差別がまかり通っていたが、ワシントンの日常生活の中で人種問題を実感することはなく、目の当たりにしたのは、層の厚い白人中間層中心の豊かな社会であった。80年代は、公民権運動を経て黒人の社会進出がある程度進んだことや中南米等から独裁、経済困難を逃れてきた移民の急増が仕事と日常生活の中で目についた。世紀の変わり目を迎えたマイアミ勤務時に米国社会の大きな変化を感じた。マイアミ市の人口の約半分は英語を母国語とせず、スペイン語が話せない人々(その多くはアングロサクソン系の白人)は肩身が狭い思いをさせられていた。ポリティカル・コレクトネス(政治的適切さ)の建前を盾に取ったマイノリティー・グループの傍若無人の振る舞いも目の当たりにした。中間層を含め、多くの人々が株式、金融商品、不動産等への投資に夢中になり、拝金主義の蔓延と格差拡大を憂慮する声も聞かれた。
現在の米国は筆者がマイアミで見た米国の延長線上にあるように思う。格差拡大が顕著になり、リーマンショックがこれに拍車をかけた。オバマ大統領の登場は、人種問題解消を始め米国社会の大きな前進の契機となるとの期待をもって迎えられたが、同政権のリーマン対策がウォール街と自動車メーカーのビッグスリーの救済策と受け止められるなど失望を買った。