中国人は我が国の不動産を制限なしで購入できる一方、日本人は中国にある不動産を購入することができないことは、広く知られている。実は、企業買収でも同じことが起きている。中国企業は、我が国のインターネットサービスを提供する企業をM&A(企業の合併や買収)しているが、日本企業は、中国のインターネットサービスを提供する企業をM&Aできない。読者の中には「あれ?」と思う方もいるかも知れない。何故ならば、日本経済新聞などで「ソフトバンクグループが保有するアリババ株式が...」という記事を目にするからだ。何故このようなことが起きているのか。その答えは、VIE(Variable Interest Entity)スキームと呼ばれる仕組みに秘密がある。中国では、インターネットサービス提供業に外資規制をかけている。このため、中国のインターネット企業は、VIEスキームを利用した米国上場を行ってきた。騰訊控股(テンセントホールディングス)、百度(バイドゥ)、阿里巴巴(アリババ)などは、VIEスキームを利用して米国上場を行っている。
VIEスキームとは何か
まずは、VIEスキームとは何かから説明を始めたい(図1)。
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事業実体のある中国企業の経営陣や中国国外の投資家らが共同で、ケイマン諸島などにペーパーカンパニーを設立登記する。このペーパーカンパニーを“シェルカンパニー”と呼ぶ。
- シェルカンパニーは、香港やヴァージン諸島などの租税回避地に、子会社を設立する。その目的は、税金面での優遇処置を受けるためだ。この子会社を“オフショア中間持株会社”と呼ぶ。
- オフショア中間持株会社は、中国国内に外資独資企業(WFOE:WhollyForeign-Owned Enterprise)を設立する。シェルカンパニーと中間持ち株会社は中国国外にあるので、中国国外から中国国内への投資という形になり、中国国内の税金面優遇などを受けることになる。
- 事業実体のある中国企業の経営陣は、中国国内に新会社を設立する。この新会社の持ち主(株主)は、外資規制のため中国人に限定される。この新会社を“中国国内新会社”(図1では「変動持ち分事業体(VIE)」と記載)と呼ぶ。中国国内新会社は、インターネットサービスを行い、事業実態のある会社となる。シェルカンパニー→中間持ち株会社→WFOEと中国国内新会社との間には、何の資本関係もない。