台湾海峡危機と日本の安全保障
―日本のなすべきこととは―

.

最高顧問・元内閣総理大臣 安倍晋三

 皆さん、こんにちは。安倍晋三でございます。今日は国会が延長したために到着が遅れましたことをお詫び致します。この度、日本戦略研究フォーラムの最高顧問に就任致しまして、大変光栄に存じます。
 今日は現在の台湾をめぐる情勢、安全保障環境等についてお話したいと思います。
 
ウクライナと台湾の共通点と相違点
 現在、ウクライナで起こっていることが果たして台湾でも起こり得るのか。共通点は、何といってもロシアとウクライナの戦力バランスは圧倒的にロシアが有利だということです。つまり、軍事バランスが一方に傾いているという問題です。
 もう1つは、両者とも同盟国が存在しないということです。同盟国がないということは、武器の援助や支援はしてくれても共に戦ってくれる国がないということです。さらに、相手国が国連安保理の常任理事国である場合は、安保理は機能しないということも今回、明らかになりました。
 ウクライナと台湾の違いについて言えば、ウクライナは独立国として世界中から承認され、国連にも加盟しています。一方、台湾は殆どの国が独立国として承認しておらず、国連の加盟国でもありません。また日本と米国は、ほぼ同じ姿勢で、1つの中国という考え方を理解し尊重する立場をとっています。
 ロシアのウクライナ侵攻が明白な国際法違反になる一方、中国の台湾侵攻は領土の一体性を確保するための行動ということで国際法違反とはなりにくい状況になる可能性が高いのです。同時に、中国とロシアの経済力は大きく異なり、中国は経済力を背景として国際社会に広く経済支援を行っています。ロシアに対する非難決議に多くの国が賛成したように、中国に対しても同様の非難決議ができるかと言えば、アジアやアフリカの国々の多くが棄権することは十分にあり得ると思います。
 そんな中、中国が今度の出来事をどう見ているか、或いは中国の武力行使を防ぐために我々は何を為すべきか、真剣に考えることが大切です。
 先般、私はプロジェクト・シンジケートというウェブサイトに投稿しました。これは多彩な識者が論説を投稿できるウェブサイトで、世界中の多くのメディアと提携としており、そこに論説が載ると色々な国々の新聞に転載されます。第二次安倍政権が発足する前の2012年、私はアジアの安全保障をどう見るかという趣旨の論説を寄稿し、後に日米豪印戦略対話(Quad)と呼ばれる構想について発表したことがあります。