今国会で審議されていた経済安全保障推進法案が2022年5月11日に成立した。この法案の重要な出発点となったのが、2020年12月に自民党の「新国際秩序創造戦略本部」が出した提言書だった。そこでは、「戦略的自律性の維持・強化」と「戦略的不可欠性の獲得」という2つの重要な視点が示されていた。この経済安全保障政策の背景には、「中国の著しい台頭」と「米中による新冷戦」がある。
中国は2015年、「中国製造2025」を発表し、米国に比肩する経済発展と技術覇権を目指すことを明確にした。2014年には、「反間諜法」(反スパイ法)、2015年7月には、「中華人民共和国国家安全法」が施行された。政権転覆や機密漏洩の防止、国家の主権や領土の保全、経済秩序の擁護、資源の確保、ネットワーク・情報安全保護能力の強化などが柱とされた。その際、中国共産党と国務院は、核心的利益を守り、開放型経済における経済安全保障システムを確立するために「外国投資のための国家安全保障審査メカニズムの改善」「グローバル化によるリスク予防及び管理システムの確立」「経済及び貿易の安全保障システムの確立」「財務リスクの予防及び管理システムの改善」などを主張した。
米中対立が明確化した2017年に至ると、「国家情報法」が施行された。その第7条では「いかなる組織及び個人も、法律に従って国家の情報活動に協力し、国の情報活動の秘密を守らなければならない。国は、そのような国民、組織を保護する」と規定し、国民全員が情報機関に協力する義務があることが明らかにされた。
2020年10月には、輸出管理法が制定され、規制品リストの整備、特定品目の輸出禁止に係わるエンティティリストの導入、みなし輸出、再輸出規制導入、域外適用の原則、報復措置などが規定された。それに先立つ2020年4月、中国共産党中央財経政委員会第7回会議で、習近平氏は「中国の産業セキュリティと国家安全保障を確保するために、中国はコントロール可能な、安全で信頼できる産業チェーンとサプライチェーンの構築に努め、重要な製品と供給チャンネルで少なくとも1つの代替供給源を確保し、必要な産業バックアップシステムを形成するよう務めなければならない」と訴えた。
こうした中国の経済安全保障政策の特徴は、「自国の経済の安全を保障するためには、他国に強制や服従、説得を厭わないこと」「米中対立や先進諸国との対立の中で、戦略物質やサプライチェーンを確保する必要があると認識するようになったこと」「特許出願数で世界一となるなど守るべき技術や知的財産、重要データが急増したことで、中国がそれらを守る立場となったこと」「不透明で一方的に中国寄りの国内法があること」「データを独占するなど支配を強めていること」などである。