東南アジアにおける中国の影響力拡大と人的ネットワーク

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顧問・元ベトナム・ベルギー国駐箚特命全権大使 坂場三男

 2021年の暮れ、NHK地上波テレビが「中国新世紀」というシリーズものの特別番組を放映した。なかなか見ごたえのある内容で、視聴した方も多かったのではないか。第2回目は「一帯一路の光と陰」というタイトルで同年の11月末に放送され、カンボジア沿海部の町ダラサコーにおいて中国資本が展開する都市リゾート開発計画(ロングベイ・プロジェクト)の現況が詳しく取り上げられていたが、その規模の巨大さは衝撃的であった。2,000億円の資金を投じて20kmの海岸線を99年間に亘って租借し、カジノ付きの超高級ホテルや3,200mの滑走路を持つ新空港が敷地内に建設されつつある。直行便による中国からの観光客誘致を当て込んでのことである。
 近くでは別の中国企業が大規模なバナナ農園を経営しており、多くの貧しいカンボジア農民がトイレもない粗末な掘っ立て小屋に集住して農奴のように働いている。一見すると、西欧列強による19世紀のアジア・アフリカ植民地経営もかくやと思わせるような光景だが、ここで背後にあるのは武力ではなく巨万の札束である。今、東南アジアの各地では巨大な中国資本が中国政府による後押しを受けながら「一帯一路」の名目による大規模な開発事業を次々と進めている。
 本稿では各種の公開資料をもとにその実情や東南アジアの人々の思いを探ってみたい。
 
中国依存の貿易投資関係
 今、東南アジアの経済は中国との貿易投資関係に大きく依存している。日本貿易振興機構(JETRO)の資料を基に調べたところ、コロナ禍の初年である2020年の貿易実績で殆ど全てのASEAN主要国において輸出・輸入ともに中国が第1位の貿易相手国になっている。例外はベトナムとフィリピンの輸出先で、中国はそれぞれで第2位と第3位になっているのみである。しかも各国の輸出入総額に占める中国のシェアも10年前の2010年と比較すると1つの例外もなく増大している。
 特に中国のシェアの増大が著しいのはミャンマーからの輸出で、13.6%から31.7%に著増している。インドネシアの輸出も同様で、9.9%から19.5%へと急拡大している。中国からの輸入は全ての国で総輸入額の20%を超えており、そのうちシェアが30%を超える国が3ヵ国(カンボジア、ミャンマー、ベトナム)あり、インドネシアでも15%から28%へと対中貿易依存度の急速な高まりが見られる。
 2020年、ASEAN地域の対中貿易シェアは域内貿易分を含めても19.4%に達している。