今年8月に開催された日本戦略研究フォーラム主催の第2回台湾有事シミュレーションは、折からのペロシ米下院議長の台湾訪問とそれに反発する中国の台湾周辺のミサイル演習によって、国内の世論が大きく注目するところとなった。深層ニュース(BS日本テレビ)、ワールドビジネスサテライト(BSテレビ東京)、ANNニュース(テレビ朝日)等でも大きく取り上げられた。
昨年に引き続き行われた今回のシミュレーションは、岩田元陸幕長、武居元海幕長のリードの下、尾上元空自補給本部長、本松元西武方面総監がシナリオ作成を担当し、①グレイゾーンから台湾・尖閣有事へのエスカレーション ②国民保護(特に、在台湾邦人、在中国邦人、先島住民)の保護と退避 ③中国による核の恫喝――という充実した迫真のシナリオの下でのシミュレーションとなった。
私は、日本セルの国家安全保障局長役を担当し、総理大臣役の小野寺五典議員、官房長官役の木原稔議員を補佐することとなった。このメモは、今回のシミュレーションに参加して感じたことを次回シミュレーションへの参考資料として、また、実際の政府の意思決定の教訓として、いくつか取り出して纏めたものである。
1. シナリオへの軍事的側面の挿入の必要性
今次シミュレーションは、特に、閣僚用の政策シミュレーションとしてデザインされたシナリオであるので、軍事的な場面の挿入が少ない。しかし、実際には、政治指導部による政策決定の後、それに従って自衛隊は軍事作戦を遂行するのであって、その結果を政治指導部に還元する必要がある。実際の戦闘が始まれば、バトルリズムに従って定期的に戦況の報告が上がってくる。
政治指導部は戦術的な指揮は統幕長に任せるべきであるが、戦略的決定に関する限り、政治指導者は責任を取らねばならない。自分の政策判断が、どのような軍事的結果を生むのかということもシナリオ上で明らかにしていくべきであろう。
例えば、事態認定の遅れ、防衛出動の遅れによって、どれほどの自衛隊の将兵が犠牲になるかということは、現実の問題として政治指導者には分かってもらわなくてはならない。政治指導者には、自分の決定次第で、どれほどの護衛艦が沈み、どれほどの作戦機が撃墜され、どの島に敵が上陸し、どれほどの自衛官が犠牲になるのかということを知らねばならない。その覚悟をもって、個々の作戦に同意乃至拒否してもらわねばならない。その重さを分かってもらう必要がある。