第6回 日本は侵略に抵抗できるか

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顧問・東京国際大学特命教授 村井友秀

国民の士気
 戦争において最も重要な条件は国民の戦う意志である。国民は自分の命よりも大事なもののために命を捨てて戦う。かつて共産主義諸国では、共産主義は個人の命よりも大きな価値があると教えてきた。また、多くの元共産主義諸国では共産主義が民族主義に変身してその影響が残っている。共産主義も民族主義も個人の命より価値があると教える。ウクライナには民族主義のために戦う共産主義のメンタリティーが残っている。このメンタリティーはロシア人もほぼ同じである。旧ユーゴスラヴィアでは戦争になれば、国民の7割を動員することになっていた(全人民的防衛)。
 但し、ロシアは資本主義国家になり、もはや共産主義国家ではなくなったが、ソ連の大国思想(民族主義)は依然として強力にロシア人の心に残っている。中国は、現在も政治的には共産主義国家であるが、経済的には資本主義国家であり、国民の間で共産主義の価値が低下した結果、共産主義に支えられた中国人の戦う意志は弱体化している。しかし、現在の中国では共産党の政策により、民族主義が共産主義に取って代わりつつある。
 さらに鄧小平の改革以来、中国では拝金主義が広まった。金の為に命を捨てる人はいない。多くの中国人は命を捨てる対象を失った。「中華民族の偉大な復興」はまだ中国人の心を支配していない。中国人にとって命よりも大事なものは無くなった。戦争の本質である「戦友は助けよ。自身は死すべし」は中国で通用しないだろう。
 北朝鮮は、共産主義理論に基づいて建国した共産主義国家ではなく、国民を国家の暴力装置で支配している金王朝の独裁国家である。共産主義国家で共産主義に命を捧げる国民はいたが、独裁者に命を捧げる国民はいない。外国との戦争になったとき、その戦争が金王朝を守る戦争ならば、北朝鮮の百万人の軍隊が戦わない可能性も十分ある。故に金王朝は個人の兵士に頼らない核兵器とミサイルに軍事力の基礎を置かざるを得ないのである。