東アジアにおける合従・連衡の虚実

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顧問・元ベトナム・ベルギー国駐箚特命全権大使 坂場三男

 皆様こんにちは。ご紹介いただきました外務省OBの坂場と申します。本日は歴史的な転換点と日本のあるべき姿について講演して欲しいとの御依頼があり、参上致しました。私は実務家でしたので、平川先生のような高尚な学術的な話はできませんが、国際情勢の現状を踏まえて、日本外交としてこれからどうすべきかということについての私見を申し述べたいと思います。
 私は外務省に40数年勤務し、その間世界を転々(インド・フランス・エジプト・米国・ベトナム・ベルギー)としましたが、東アジアについては専門領域ではなく在勤したこともありませんでした。ただ外務省を退官して、これからの日本のあるべき姿を考えた時にどうしても東アジアについて考えなければいけないということで、色々と勉強し、思索をめぐらす機会が増えました。
 幸いと言うと語弊がありますが、この3年弱コロナ禍で外出もままならないということもあり、読書三昧の日々を送りました。特に中国、朝鮮半島を歴史的な視点から理解すべく100冊以上の関連書物を乱読しました。本日は、外交官としての私の職業経験と読書による学びから得たものを踏まえ、東アジア情勢のあり様について若干の私見をお話したいと思います。
 タイトルは「東アジアにおける合従・連衡の虚実」と致しました。東アジアにおける国際関係の将来を考える時、中国の長い歴史に思いを馳せることが重要な意味を持ちます。紀元前のことになりますが、中国の秦という国が始皇帝の時代に初めて中国全土を統一します。この過程で、「戦国の七雄」と呼ばれた近隣諸国を次々と滅ぼしていったことは皆様御高承の通りです。
 「連衡」と「合従」というのは張儀(ちょうぎ)、或いは蘇秦(そしん)などのいわゆる縦横家(しょうおうか)と呼ばれた弁舌の徒が中国全土の統一に向けての方策、片やそれに対抗するための戦略として唱えた考え方です。戦国時代の後半、具体的には紀元前320年頃に彼らはこの思想を確立し、国王を説得するために各国を行脚しました。その当時の状況を振り返って見ると、今の東アジアの状況、つまり強大化する中国に向き合わねばならない日本を含めた東アジア諸国等が置かれた政治・安全保障状況と非常に似ているという気がします。
 本日はそういう視点から先ずお話を始めたいと思います。
 
1.中国TVドラマ「大秦賦」と歴史の教訓
 民放テレビ(WOWOW)が今年1年を通じて秦の始皇帝を主人公とする中国の大河ドラマ「大秦賦」を放映していました。