非暴力で独裁体制を倒す
―在⽇ウイグル⼈が学術書で明かす―

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日本ウイグル協会理事 サウト・モハメド

 昨年(2022年)10月16日、中国共産党(以下、中共)の第20回全国代表大会が北京で開かれ、習近平政権が異例の3期目に入った。本大会において習政権の10年間の政権運営が称賛されたほか、習氏への忠誠を定める「2つの確立」(習氏の党の核心としての地位と、習氏の政治思想の指導的地位を確固たるものとすること)が党規約に明記され、また側近による人事が確かなものとなった。今後、中国政治は毛沢東の時代に匹敵する個人独裁の時代に入るであろう。
 
1.抑圧が強まる習近平体制
 習政権は発足した当初から「中華民族の偉大な復興」や「中国の夢」など漢民族(以下、漢族)のナショナリズムを高揚させるスローガンを掲げ、周辺の各民族に対する差別や迫害、漢族への同化政策を強めてきた。今大会の開幕式においても習氏は報告で、「中華民族」という言葉を27回も繰り返し、今後も強硬な支配を続ける姿勢を示した。永続化する習近平体制中で、虐げられている各民族はどう対応すればよいのか。
 中国が抱えている民族問題と言えば、チベットやウイグル、南モンゴル、香港、台湾などの問題が連想される。中共の実効支配が及んでない台湾を除けば、これらの地域に対して中共は各民族に一定の自治権を認める統治制度を導入している。即ち「少数民族」が集中的に居住している地域の主要民族に一定の自治権を与える「民族区域自治制度」と、香港に適用している高度な自治権を認める「特別行政区制度」である。しかし、現実的にはいずれも約束された自治権は縮小していき、有名無実化した。
 ウイグル人の故郷東トルキスタン(中国名「新疆ウイグル自治区」)は1949年に中共に併吞され、6年後の1955年に「民族区域自治制度」が導入された。所謂「民族区域自治制度」は、内政を自民族で決められるという仕組みであるが、実際には政治的権利は殆ど認められておらず、当初約束された文化的権利も縮小され、名ばかりの自治制度となっている。
 中共の強硬な支配、民族自治制度の形骸化などの問題により、各民族に不満が募り、屡々紛争が起きている。中共は自らの統治を揺るがす民族問題の存在を認めるどころか、漢族のナショナリズムを高揚させつつ、「少数民族」を漢族に強権的に同化させようとしている。各民族が苦境に直面しているが、中でも、ウイグル人の状況が最も深刻である。
 2017年から「新疆ウイグル自治区」の各地で「再教育キャンプ」と呼ばれる強制収容施設が作られ、そのことは2018年頃から国際社会の注目を集めるようになった。