第7回 急がれる事態対処法の 見直しを含む法的整備の充実

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政策提言委員・元陸上総隊司令官 髙田克樹

はじめに
 昨年8月6日・7日、ホテルグランドヒル市ヶ谷で実施された日本戦略研究フォーラム主催の台湾有事を想定した「政策シミュレーション」に参加する機会を得た。政策シミュレーションの目的は台湾海峡が不安定化するシナリオに基づき、①我が国の安全保障上の課題を抽出し、政策提言に繋げる、②参加者の一層の理解の深化と国民の意識向上を図る――というものだ。小野寺元防衛大臣をはじめとする9名の現職国会議員、各省庁の元高級幹部、退官した自衛官OBが参集し、私は陸上幕僚長役を拝命した。開催日の直前、ペロシ米下院議長の訪台に対抗する中国の特別軍事演習が開始されるという偶然も重なり、マスコミをはじめ大きな関心を呼ぶこととなった。私は、本シミュレーションの参加に当たり、陸上総隊司令官として悩み続けたことを隠さず、恐れず参加者に問いかけようという意気込みで臨んだ。
 
陸上自衛隊の機動展開上の諸制約と課題
 現職時代、陸上作戦の統括に責任を負う陸上総隊司令官として終始悩み続けたのが、「平時における機動展開」と「抑止態勢の確立」だった。2003年に制定された事態対処法は、各種事態への対処について、基本理念、国・地方公共団体の責務、国民の協力その他の基本となる事項を定めることにより、武力攻撃事態、同予測事態並びに緊急対処事態の認定やその手続き、対処基本方針の中身、更には特定公共施設等利用法や国民保護法等との関連付けを規定した。
 また、2018年3月の陸上総隊の新編に合わせ、「陸上自衛隊の一体的運用の円滑な実施に関する訓令(陸上自衛隊訓令第8号)」が制定され、防衛大臣の作戦準備命令により陸上総隊司令官は方面隊の全部又は一部を指揮し、部隊の移動、編成、装備品等の調達、集積及び整備その他の準備行為が平時から実施可能となった。これにより、一見すると平時から有事まで間断のない陸上自衛隊の運用態勢が整ったようだが、実は大きな瑕疵があった。それは、部隊の機動展開を行う上で、他省庁管轄のおよそ20個の法律の適用除外が可能となるのが、武力攻撃予測事態以降であるということだ。