安全保障関連3文書の光と陰
―「専守防衛」の軛と「核抑止戦略」の欠如―

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政策提言委員・元航空支援集団司令官 織田邦男

評価すべき安全保障関連3 文書
 日本は戦後最悪の安全保障環境に直面している。日本は中国、ロシア、北朝鮮という独善的で、しかも核を保有した独裁国家に囲まれている。
 昨年、ロシアはウクライナへの侵略戦争を始め、いまだ停戦の兆しはない。中国は「偉大なる中華民族復興」の夢を掲げ、台湾の武力併合も否定しない。台湾有事は日本有事であり、何としてでもこれを抑止しなければならない。
 北朝鮮は昨年、37回、約70発の弾道ミサイルを日本海などに発射した。7回目の核実験も準備中と言われる。2月に入って、再び中・長距離弾道ミサイルを発射した。北朝鮮は、「日本列島は核爆弾により海に沈められなければならない」(2017.9.14朝鮮中央通信)と日本攻撃意図も示しており、「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」となっている。
 こんな中、昨年12月、安全保障関連3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)が閣議決定された。12月16日付ウォールストリート・ジャーナル紙は、ʻThe Sleeping Japanese Giant Awakeʼ(眠れる巨人日本の覚醒)と題する社説を掲載し、日本の安保3文書は歴史的な変化であり、岸田総理が政治的リスクをとったことは評価されるべきであると述べた。
 国家安全保障戦略(以下、「安保戦略」)では、パワーバランスの歴史的変化と地政学的競争の激化に伴い、国際秩序は重大な挑戦に晒されているという情勢認識の下、国際協調を旨とする積極的平和主義を維持しつつ、我が国を守る第一義的な責任は我が国にあるとして我が国の安全保障上の能力と役割を強化するとした。国益実現のため、防衛力のみならず、外交力、経済力、技術力、情報力という総合的な国力を用いた戦略的アプローチを重視した点、そしてサイバー、海洋、宇宙、技術、経済安全保障など全方位での取り組みを強調した点は、積極的に評価できる。
 我が国を取り巻く安全保障環境で最大の頭痛の種は、中国の動向である。この3月から習近平国家主席による3期目の政権が始まった。側近をイエスマンで固め、益々、独裁色を強めている。権威主義的、拡張主義的傾向を更に強めた習政権が、透明性を欠いた急激な軍拡を背景に、力による一方的な現状変更の試みは、我が国のみならず全地球的な安全保障に暗雲を投げかけている。安保戦略ではこれを「最大の戦略的な挑戦」とし、「脅威」とは表現しなかった。米国の安保戦略と同じ「挑戦」として歩調を合わせたと思われるが、米国と日本では地政学的にも脅威認識は違って当然である。腰が引けている感は否めない。