防衛3文書と今後の日本の安全保障

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衆議院議員 大塚 拓

はじめに
 ロシアのウクライナ侵略により、新たな地政学的リスクの時代が幕を開けてしまった。
 振り返れば、国際社会は、遅くとも2014年のクリミア併合時点で、ロシアが抱える本質的なリスクと向き合うべきであった。だが、我が国を含め多くの国々は、国際政治の現実を直視することを避けてきた。
 翻って、尖閣諸島、南シナ海、台湾などを巡る中国の言動を虚心坦懐に見たとき、十分な備えを怠った場合、リスクが顕在化するのは時間の問題であるのは明らかだ。だが、我々はこのリスクにも正面から向き合いきれぬまま、抜き差しならないほど拡大した戦力差を抱えつつ、習近平国家主席3期目というハイリスクな段階に突入した。
 2022年12月に、歴史を画する内容となった防衛3文書が策定された。リスクが高まることが予想される2027年近傍に向け、ぎりぎりのタイミングであったと言える。その特徴は、我が国にとって初めての「国家防衛戦略」が策定されたこと、5年間の防衛力整備計画が歳出ベースで43兆円と、01中期防の27.5兆円から飛躍的に増加し、必要な継戦能力を獲得すること、反撃能力の保持を決定したこと、外交・防衛・経済安全保障・サイバー・技術・情報・認知領域などを含めた総合的な戦略体系となっていることなど、これまで必要性が指摘されながら実行できていなかったことをほぼ網羅したものとなっている。
 今回の防衛3文書は、我が国が長年の宿痾から脱却し、備えるべき脅威に正面から取り組んでいくための1つの到達点ではあるが、まだまだ残された課題は多い。
 ここでは、防衛3文書策定に至る背景とその概要を振り返り、今後の課題と我が国の安全保障のあるべき姿について論じる。
 
1.背景
 近年、我が国の安全保障政策は、2013年に国家安全保障局を設置、初めての国家安全保障戦略を策定したことや、2015年に平和安全法制を成立させ、限定的集団的自衛権を行使可能とするなど、制度面では大きな飛躍を遂げてきた。
 しかしながら、防衛力に目を転じると、率直に言えば、これまで、どう見ても実際には戦わないことを前提に整備してきたと言わざるを得ない状態にあった。
 2015年、新任の自民党国防部会長として、とある駐屯地を訪ねた際のことである。展示されていたある装備品について一連の説明を聞いた後、ふと思い立って可動数を質問してみた。