昨年末の安全保障関連3文書は、これまでの様々な懸案を打開し、我が国の安全保障を確実なものにしようとの本気度が随所に現れており、長年防衛に携わってきた者として称賛と敬意を表したい。しかしこれは、閣議決定文書において改革のスタートラインに立ったということであり、この戦略文書を実行に移さないと絵に描いた餅になる。今後やらねばならないことは山積しているが、名実ともに日本の安全保障政策上、戦後最大の転換となるよう、今後の具現化を期待したい。
真に反撃できる能力の構築を急げ
特に評価するとともに、速やかに具現化を期待する点は4点ある。1つは脅威対抗型の防衛力へ完全に転換したことだ。国家戦略は、何から何を守るのかを明確にした上で、相手の能力に応じて確実に守れる体制を構築することが必須である。これまでは、脅威対象を明確にはしていなかったが、軍事用語でいう「主敵」を明確にしたことは戦略としてあるべき姿になった。勿論、政治外交上の配慮があるため、中国を名指しで脅威とは表現せず、「これまでにない最大の戦略的な挑戦」としているが、国家安全保障戦略(以下、「安保戦略」)全体を読むと、内容的には脅威として捉え、戦略を打ち立てていることが読み取れる。深刻な危機感を中国に対して持った上で、確実に対抗できる防衛力を強化しようという意志が表れており、大いに評価できる。
その中でも、一番大きな転換は、やはり反撃能力だ。盾と矛における矛の一部でも日本自らが持たなくてはいかんという、切羽詰まった危機意識を共有したのだと理解できる。反撃能力保有において大事な事は、徹底的な防空能力と反撃能力、この2つをセットで考えていくことが重要だ。
野党は、国民をどう守るかという本質論よりも、先制攻撃にならないのかという議論の方を重視しているように思える。防空能力で本当に守りきれるのであればいいが、そもそも完全無欠な防空は技術的にも予算的にも不可能ということをまずは理解する必要がある。その上で、近年はミサイル滑空技術の向上により防空が益々難しい時代になっている状況において、徹底的な防空能力の向上を図りつつ、同時に反撃能力を持つことが不可欠であるということを理解しなくてはならない。
中国は日本に届く射程1,000kmから3,000kmの準中距離弾道ミサイルを500発以上、及び射程3,000kmから5,500kmの中距離弾道ミサイルを250発以上、さらに射程1,500km以上の巡航ミサイルを300発以上、総計で1,050発以上を保有している(中国軍に関する米国防省報告、2022年11月)。