ロシアによる侵略後の世界
―インドとどう付き合ったらいいのか?―

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上席研究員・ハドソン研究所研究員 長尾 賢

 2022年2月24日、ロシアのウクライナ侵略が始まった。それから約1年、世界はどう変わっただろうか。それは日本にとってどのような影響を与えるものだろうか。
 ロシアのウクライナ侵略の強い影響を受けた国の1つがインドだ。2021年までは、世界は、米中対立の激化に焦点が当たり、中国発祥のCOVID-19の世界的な広がりの中で、対中認識が厳しくなっていた。その中で、中国に対抗するインドの重要性は高まり、インドは、西側諸国から熱愛されるような状況になっていた。
 ところが、そこにロシアのウクライナ侵略が飛び込み、伝統的にロシアと友好関係にあるインドは、古い友好国のロシアと、新しい友好国である西側陣営の板挟みになってしまったのである。
 本稿は、インドを巡って、3つの段階を経て考察するものである。まず、ロシアの侵略は、インドとの関係にどのような影響を与えたか整理する。次に、その新しい状況の中で、対中戦略、例えば台湾有事を防ぐために、インドとの関係はどのような貢献をする可能性を持っているのか、考察する。最後に、その可能性を実際に実現させるために、日本はどうするべきか、提案するのである。
 
1. ロシアの侵略で影響を受けたインド
 ロシアのウクライナ侵略を受けてから、西側諸国とインドとの間では意見の相違が明確になった。ロシアのウクライナ侵略を受けて、西側諸国は国連安保理において非難決議を出したが、インドは棄権した。しかも、ロシアからの原油輸入を増やして、西側諸国の経済制裁の抜け道になった。中国も同じような行動をとったことから、一見すると、中国とインドで、ロシアを支援しているように見え、バイデン米大統領は、両国を名指しで非難する演説を行ったほどだった。
 ただ、インドの態度は、中国とも違うものであった。まず、中国は、西側諸国がかけた経済制裁を非難したが、インドは西側諸国を非難しないようにしている。ロシアと中国が国連安保理で出した決議案に対しても、インドは棄権した。そしてプーチン露大統領に会った際には、モディ印首相は、「今は戦争の時代ではない」と、直接伝えた。このような行動から、インドは、今回の戦争は、西側諸国ではなく、ロシアに責任があると思っていることが分かる。それ以外にも、ロシアという名指しを避けながら、ブチャでの残虐行為についても非難している。要するに、明確に非難はしないが、インドはロシアが悪い、と思っているのだ。
 それにも拘わらず、インドがロシアを非難しないのは、ロシアが過去70年、一貫して、インドを支持してきたことが背景にある。