再生可能エネルギー政策と国家安全保障

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政策提言委員・経済安全保障アナリスト 平井宏治

 我が国では、再生可能エネルギー(以下、「再エネ」)政策が推進され、太陽光発電所や風力発電所が全国各地で建設されている。再エネ推進政策に基づいて、中国などの懸念国も電力事業に規制なしで参入している。一例を挙げると、上海電力日本が、山口県岩国市に建設中の大規模な太陽光発電所(以下、「メガソーラー」)は、岩国基地から朝鮮半島方面に向かう空路の真下にあり、安全保障上、懸念する声が上がっていることは、既に本誌『季報』(Vol.94)で解説した通りである。
 我が国では、メガソーラーだけではなく、全国各地で風力発電所建設が推進されているが、これらの風力発電所で使用される風車が、我が国の安全保障に悪影響を及ぼすことについて北海道での実例などを交えて取り上げる。
 
風力発電所がもたらすレーダーへの影響
 昨年のロシアによるウクライナ侵略戦争から1年以上が経ち、国民の国防に対する意識も変化した。一方で、中国の習近平国家主席は、武力行使も含めた台湾侵略の意図を隠しておらず、人民解放軍による台湾への挑発行為も増え、米中間の対立は先鋭化している。多くの識者が、台湾有事が沖縄有事に繋がることを指摘している。
 西側諸国と独裁国家との間で、緊張が高まる中、自衛隊は、日米安全保障条約に基づき自衛隊は、我が国に駐留する米軍(在日米軍)と共に、平素から警戒監視や訓練といった多様な活動を行っている。平素からの活動なくして、我が国の平和と安全を全し、我が国の独立を維持することは不可能だ。
 自衛隊や在日米軍の国防活動に際し、電波の円滑な利用は極めて重要である。風力発電所が建設されると、一基当たり陸上では百数十メートル、洋上では二百数十メートルに及ぶ風車群が設置される。これらの風車が、レーダーのような電波を発する装備品の運用や通信へ悪影響を及ぼし、自衛隊や在日米軍の活動に支障を生じる。
 レーダーは、物体に対して電波を発信し、反射した電波を受信することでその物体の位置を特定する装置だ。風力発電所が建設され、大型風車が稼働すると、風車から受けるレーダー電波の反射は大きく強いものとなる。このため、自衛隊のレーダーの主な探知目標である敵国の戦闘機・爆撃機やミサイルといった小さい物体からの微弱な反射波は、風車からの反射波に埋もれてしまう。この結果、目標の探知や追尾に支障を生じ、我が国の国防上問題となる。また、気象レーダーが風車の反射波を捉えた場合、風車を強い雨雲と誤って観測するなど、航空機の安全な運航等に不可欠な気象状況の把握を適切に行うことができなくなる。