池上彰・佐藤優著『日本左翼史』への違和感と素朴な疑問

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政策提言委員・アジア母子福祉協会常務理事 寺井 融

 衝撃が走る(2022年2月24日)。ロシア軍によるウクライナ侵攻が、始まったからだ。
 すぐ8月21日(1968年)を、思い出した。チェコ事件である。当時、私は大学2年生。NHK正午のテレビニュースで、侵攻を知り、民社学同(日本民主社会主義学生同盟)の仲間3人で「ソ連はチェコから出て行け」のプラカードを掲げ、狸穴(東京都港区)のソ連大使館へ抗議に出かけた。
 日本で最初の抗議行動として、翌日の「毎日新聞」第2社会面で報じられた。
 「抗議文」草案は私が書き、中島寿一先輩(後に経済評論家)が英訳して持参。ソ連大使館は門を固く閉ざしており、「抗議文」は郵便受けに投じて帰って来た。
 伊藤郁男民社党国民運動部長(後に参議院議員、作家いとうせいこう氏の実父)が「これは学生だけの問題ではない。全国民の問題だ」と、同盟や民社研にも働きかけ、8月27日に民社党も含めた3団体による「抗議集会」を開く。芝公園からソ連大使館まで、抗議デモも行った(500人参加)。
 今回でも、そんな動きが出てくるのか。それを注視していたのだが、在日本のウクライナ人らによる抗議集会が開かれた、と報じられたものの、政党や既存市民団体による大規模な動きが伝わって来ない。
 学園紛争やベトナム戦争反対などで、社会が騒然としていた60~70年代を“あの時代は良かった”と懐かしむつもりはない。けれども、少々寂しい気がする。
 そんな思いもあって、『日本左翼史』を読んでみた。講談社現代新書で、《真説》《激動》《漂流》の3部作。ジャーナリストの池上彰氏と、作家の佐藤優氏による対談書である。それへの感想を「時事評論石川」に寄稿した。幸いにして反響も呼んだ。
 以下、全文を転載する。
 
 『日本左翼史』が売れているときく。戦後左翼の言動に、検証のメスを入れたことを評価しつつ、若干の感想と疑問を呈しておく。(以下、敬称略)
 本書は「左翼運動は世界史的に見れば明らかに復活の兆しがある」と考える佐藤が、池上に「過去の左翼の功罪の再検討」を呼びかけ、実現した企画。日本の左翼を社会党、共産党、新左翼と規定している。
 佐藤の「『左翼』と『リベラル』が全然別の概念だということも理解されていない」との指摘(《真説》20頁)は同感だが、質すべき点も多々ある。本稿では以下の5点に絞る。