台湾有事
― 日本に不可欠のシミュレーションとは ―

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慶應義塾大学SFC研究所上席所員 中村 進

目的によって異なるシミュレーション
 昨年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻が、1年を経過した現在も終結の目途が立たず国際社会の関心がウクライナに向けられている一方で、アジアでは、中国の台湾侵攻に対する警戒感は和らいでいない。このため、日本とアメリカでも台湾有事を想定したシミュレーションが盛んに行われている。
 例えば、アメリカでは昨年6月に新アメリカ安全保障センター(CNAS)、8月には戦略国際問題研究所(CSIS)というアメリカを代表する2つのシンクタンクが相次いで台湾有事をテーマにしたシミュレーションを実施した。2つのシミュレーションではともに、抑止が失敗したあと中国と台湾及び支援するアメリカとその同盟国のパートナーによる紛争は長期化し、双方とも受忍できないほどの損害を被り、中国の台湾統一は成功しないが、結局、勝者のない戦いに終わるという結果が報告されている。そして両者ともシミュレーションの結果を踏まえて、国内の政府機関や軍に対して軍備増強を中心とした提言を行っている。
 こうしたシミュレーションは、何を検証するか、結果を何に反映させるかなどの目的によって、シナリオの内容からアウトプットまで様々な態様で行われる。その意味からは、アメリカで行われるシミュレーションは必ずしも日本特有の問題の検証に適合するとは言い難い。
 アメリカと同様の事態の推移・結果のシミュレーションとそれに基づく提言は、研究者の分析を含めて日本国内でも一般的に行われている。しかし、日本においてシミュレーションを行う上では、諸外国には見られない政治、法制度など日本特有の要素が重要な意味を持つが、一般のシミュレーションでは、そのシナリオの推移に合わせて「重要影響事態」や「武力攻撃事態」、「存立危機事態」という法制上の事態を当てはめるに留まり、そこに内在する問題を検証しているものは極めて稀である。