1.湯水のように使う
(1)日本の水
古来、日本では「湯水のように使う」という表現に違和感を覚えることはなかった。世界平均(約880mm)の約2倍の年平均1,718mmの降水量があり1、美しい四季に彩られ、冬は山々に雪が積もり、やがて春が来て雪が溶け村々では田植えに忙しい季節を迎える。梅雨も、秋の長雨も、国土を潤してきた。明治史観によって学校で学ぶことがあまりない江戸時代の先進性の1つに江戸が世界有数の水道網が整備された街であったことがあげられる。今でも水道橋、お茶の水、溜池、大木戸門などにその名を留め、保科正之が掘削・建設を命じた玉川上水に至っては21世紀の今も一部が現役で活躍している。そして今日の東京は大正、昭和の村山貯水池や小河内ダムを手始めに、多摩川水系、荒川水系、利根川水系に多くのダムを作り通例は水に困ることはない。ところが、「湯水のように使う」という表現を他の国では聞いたことがない。
(2)地球の水
1961年4月ソ連は世界初の有人宇宙飛行を成功させ、ユーリ・ガガーリンの「地球は青かった」との報告は世界中を驚かせた。今では宇宙から見た地球の写真は当たり前に見られるが、当時はそのようなものはなかったからである。因みに、2007年11月に日本が打ち上げた「かぐや」が月の上空から撮影した青い地球の美しさを覚えている方も多いかと思う。
地球が青いのは地球の表面の約71%が海だからであり、地球上には約14億立方キロの水があるとされている。ところが、水の惑星・地球の水の97.4%は海水であり、淡水は僅か2.53%にすぎない2。しかもその淡水の殆どは南極、北極、高山の氷河、地下の帯水層にあり、河川、湖沼、地表に近い地下水など人間が容易に使える水はわずか0.01%に過ぎない。
(3)水は偏在する資源
その上、水は時間的におよび地域的に遍在する。そのため洪水と干ばつ、砂漠と熱帯雨林と水の多寡により自然環境は大きく変わる。さらに昨今気候変動の影響が事態を悪化させており、観測史上例を見ない集中豪雨、洪水、逆に渇水などが日本でも起きるようになっている。世界銀行は世界18億人に洪水リスクがあり、そのうち日本は3,600万人と分析した3。2011年にタイで起きた洪水では日本の自動車メーカーの工場が操業停止を余儀なくされ、サプライチェーンが止まってしまった。2022年には世界的に干ばつが深刻化し、WFP国連世界食糧計画はエチオピア、ケニア、ソマリア全体で推定1,300万人が深刻な飢餓に直面すると警告した。