本稿は、北朝鮮の核能力はどのレベルまで来ているのか、金正恩政権の核兵器使用の可能性、即ち、北朝鮮の核脅威はどの程度か、そして、北朝鮮と直接対置している韓国尹錫悦政府はどのような対応策を講じようとしているのか、韓国と同じく北朝鮮の核の脅威に晒されている日本はどう対処すべかについて検討し、政策提言を目的とする。
北の核能力はどこまで来ているか
ジェイク・サリバン米国家安全保障担当大統領補佐官は6月2日、民間団体軍縮協会(ACA)主催の行事において行われた基調演説で北朝鮮を主要核脅威国家の1つだと指名した上に、「金正恩は世界で最も強力な核武器を保有するつもりだ、戦術核兵器から大陸間弾道ミサイル(ICBM)、無人水中核兵器に至るまでありとあらゆる核武器開発を強化している」と指摘、「北朝鮮の核脅威は増加している」と語った。
これまで北朝鮮は再三にわたり核武器完成を「宣言」してきた。2018年4月20日、南北首脳会談を控えて開いた朝鮮労働党中央委員会第7期3回全体会議にて採択した核及び経済建設併進路線に関する「決定書」では、「党の併進路線(経済建設と核武力建設を同時進行するとの意味――筆者注)を貫徹するための闘争過程に、臨界前核実験及び地下核実験、核武器の小型化、軽量化、超大型核武器と運搬手段開発のための事業を順次進行して核武器の兵器化を確実に実現したことを厳粛に宣言」(決定書第1項)した。その1週間後に金正恩国務委員長は韓国文在寅大統領(当時)に会い世紀の欺瞞ショーの幕を開けるが、偽りの平和ショーのどさくさに紛れて首脳会談直前に北朝鮮が党大会で採択した「決定書」で核保有を既定事実化したことは問題視されることはなかった。
板門店での南北首脳会談が行われた後の5月24日、金正恩は外国メディアを北朝鮮に呼び入れ、咸鏡北道吉州郡プンゲリの地下核実験場にある坑道入口を爆破してみせるイベントを催したが、それも世界を欺くための演出だったことは、爆破現場から500mも離れた所でその様子を眺めていた記者たちの目にも明らかなものであった。2km以上もある核実験用坑道の入り口のみを爆破しただけで、いつでも核実験を再開できるよう坑道は温存したのだ。
その後暫く続いた対話雰囲気のなかでも北朝鮮はミサイルや核開発を中断したわけではなかった。北朝鮮にとって外交と軍事は別物。外交上、どのような協議が進行しているか、どのような約束が交わされたかは北朝鮮という国家の属性からして完全に別物だ。