今年もまた日本戦略研究フォーラム(JFSS)主催の台湾有事政策シミュレーション(以下「シミュレーション」)が行われる。回を重ねる毎に内容も参加陣容も充実してきた。多くの政治家が参加し、メディアにも公開しながら極めて難しい政治判断を演練するこのような機会は他に例がなく、実態に即した政策形成、政治判断に通ずる貴重な演練の場になっている。この取組によって得られる成果は、有事という我が国にとって最大の国難に立ち向かう上での貴重な基盤になるとともに、民間レベルが発信できる戦略的メッセージとしての側面も有しており、更に国民の理解を促進する重要な情報発信にもなっている。
本年のシミュレーションは対象時期を2027年とし、昨年末に策定された安保3文書が目標とする安全保障体制の完成を前提としている。岸田総理は防衛大学校の卒業式において「反撃能力の保有、南西地域の防衛体制の強化、宇宙・サイバー・電磁波等の新領域への対応や継戦能力の強化などは待ったなしの課題」と訓示し、防衛力の抜本的強化の必要性を強調した。
そこで本稿では、これまでの2回のシミュレーションでも取り上げられ、今回も大きな課題になるサイバー攻撃の対応における重要課題、「通信の秘密」について考えてみたい。
昨年末に閣議決定された国家安全保障戦略では「武力攻撃に至らないものの、国、重要インフラ等に対する安全保障上の懸念を生じさせる重大なサイバー攻撃」の恐れがある場合、これを未然に排除し、また、このようなサイバー攻撃が発生した場合の被害の拡大を防止するために「能動的サイバー防御」を導入することとされている。そして可能な限り未然に攻撃者のサーバー等への侵入・無害化ができるよう、政府に対し必要な権限を付与し、我が国へのサイバー攻撃に際して相手方のサイバー空間の利用を妨げる能力の構築に係る取組を強化するとされている。
平時有事を問わずサイバー攻撃による効果を抑制し被害を局限するためには、普段からサイバー領域における情報を収集し、敵性情報を把握・分析しておかなければならない。また、サイバー攻撃を受けた際に被害を局限し拡大を防止するためには、サイバー攻撃者を特定すること(アトリビューション)が不可欠である。