日本は、大国化するインドとどう付き合うべきか

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上席研究員・ハドソン研究所研究員 長尾 賢

 日本とインドを近付けたのは、安倍晋三首相だ。これまで使われていたアジア太平洋ではなくインド太平洋を提唱し、アメリカの同盟国である日本とオーストラリアだけでなく、インドを入れた日米豪印QUAD を提唱した。QUAD は、インド太平洋で、中国以外の大国を全て集めた枠組みであるから、中国対策の根幹でもあった。安倍首相は、インドで人気があり、モディ首相の親友でもあり、インドを説得して、これらの対中国戦略を実現することができたのである。

  しかし、安倍首相は、暗殺されてしまった。以降、QUAD でも、インド太平洋でも、日本の主導権は薄まり、アメリカが構想を主導するようになっている。ところが、インドはアメリカのことをあまり信用していない。結果、QUAD の将来性にも不安感が漂っている。

  2024 年、QUAD の首脳会議はインドで行われる予定だ。そのため、2023 年から準備が進み、2024 年1 月26 日に行われたインドの共和国記念日の軍事パレードの主賓として、QUAD4ヵ国の首脳をデリーに招き、QUAD 首脳会議も同時に開催して盛り上げる構想であった。昨年9 月の段階では、バイデン大統領の出席の検討が行われ、駐印アメリカ大使も、そのような発言をしていた。しかし、結局、この構想は実現せず、フランスのマクロン大統領が主賓となった。QUAD の首脳会談は延期され、今年末まで先延ばしされそうである。原因は、米印関係に暗雲が漂い始めているからである。左派のバイデン大統領と右派のモディ首相は、対中戦略では一致しているものの、民主主義や人権などで揉め始めている。そのため、今年春のインドの選挙、11 月のアメリカの選挙にお互い協力したくない。QUAD 首脳会議は、それら選挙の後になる予定だ。つまり、今起きていることは、米印関係の状況にQUAD が直接影響を受けた形だ。

  その一方で、インドの大国化は目に見えて現実味を帯びている。国防費で見れば、既にアメリカ、中国に次ぐ世界第3位。核兵器も保有しており、安全保障は強固だ。GDP については、2023 年にイギリスを抜いて世界第5 位で、国際通貨基金(IMF)の予測によれば、今から2年後の2026 年に日本を抜き、2027 年にはドイツも抜いて、世界第3 位になるものと見られている。自信のほどは行動に反映され、約50ヵ国も集めた共同軍事演習「ミラン2024」では、インド空母2 隻が同時に参加して威容を示すようになった。宇宙飛行士4 名を選定し、2035年を念頭に独自の宇宙ステーション建設に進みつつある。そのため、もし日米豪との連携に対する魅力を失えば、インドは独自の道を行く傾向を強めるだろう。それができる実力を身に付けつつあるからだ。