2022 年5 月11 日、経済安全保障推進法(以下「推進法」)が成立した。推進法は、国際情勢の複雑化や社会経済構造の変化に伴い、安全保障を確保するために経済活動に関する国家及び国民の安全を害する行為を未然に防止する必要性が増大していることから制定された。この法律は、経済施策を一体的に講ずることにより安全保障を確保するための基本方針を策定し、所要の制度を創設するものである。具体的には、「重要物資の安定供給確保」(サプライチェーンの確保)、「基幹インフラ役務の安定提供確保」、「先端重要技術の開発支援」、「特許出願の非公開」(秘密特許制度)などが含まれている。法律の着実な執行に向けて段階的に施行されており、具体的な基本方針や指針が閣議決定されている。推進法の基本方針について説明する。
① 「重要物資の安定供給確保」(サプライチェーンの確保)
石油、食糧、医薬品、原材料など、国家の経済的・軍事的運営に不可欠な物資を安定的に供給することが求められている。これにより、国内の基幹産業や市民生活が円滑に維持される。生産拠点や物流拠点の分散、災害対応方法の事前検討と周知、サプライチェーンの見える化、難しい素材・部品の在庫確保、設備や施設の災害対策が重要である。
②「基幹インフラ役務の安定提供確保」
電力、通信、水道、交通などの基幹インフラの安定的な運営は、国の機能を維持するために不可欠なことであり、重要物資の供給のためには、これらのインフラの安定的な運用が必要である。国内外から提供される基幹インフラ役務(特定社会基盤事業)において、重要設備が安定的に提供されることを妨害する行為を防止する。国は一定の基準を満たす事業者(特定社会基盤事業者)を指定し、重要設備(特定重要設備)の導入や維持管理などの委託を行う際に、事前に届出を行い、審査を受ける。
③「先端重要技術の開発支援」
特定重要技術を将来の国民生活や経済活動に不可欠なものとして定義し、これらの技術が外部に不当に利用された場合には国家や国民の安全を損なう恐れがある。特定重要技術の研究開発を促進するために、官民連携を通じた支援のための協議会が設置されている。また、指定基金協議会を通じて強力な支援が行われており、特定重要技術の研究開発成果を国民や社会への確かな還元を図るために適切に活用されることが求められている。