プーチン政権5 期目と ウクライナ戦争の行方

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政策提言委員・拓殖大学大学院特任教授 名越健郎

 ご紹介いただきました名越です。私は時事通信の記者を長年やっていまして、モスクワには2 回、計8 年駐在しました。最初はソ連崩壊の時でした。ソ連崩壊を受けて、これでロシアも普通の国になるだろうという漠然とした予感があったのですが、完全に間違えて、ソ連よりも危険な国になってしまいました。
KGB 体制が膨張するプーチン・ロシア
  冷戦時代、国際紛争ではソ連は寧ろ自制的で、アメリカの方が積極的に関与していました。それが今ではプーチンはあちこちで戦争を繰り返しています。ということで、ロシアはソ連よりも危険な国になってしまった。これはやはり、ソ連の中で最も危険な要素であるKGB(ソ連国家保安委員会)が温存されたことが大きい。旧KGB はプーチン体制下でさらに膨張し、実権を握って独走している状態です。だから、ソ連はまだ完全に崩壊してないということです。
  エリツィン大統領はソ連が崩壊した時に、ソ連共産党を解体しましたが、KGBは温存した。正確には、自分の政権維持に役立つと考え、分割して機能を維持したわけです。それが結局、旧KGB の中堅将校だったプーチンらがエリツィン後に実権を握って暴走している構図です。
  KGB の人間は内外の敵を探すのが仕事ですから、仲間しか信用しない。プーチンは政権を握った後、サンクト・ペテルブルグ時代に20 代で一緒に働いた KGB の同僚をクレムリンに呼んでインナーサークルを作り、外交安全保障はそこで決めていく。ウクライナ侵攻もそうだったのです。東欧諸国やバルト三国のように、冷戦終結時に秘密警察を解体しておけば、ウクライナ侵攻もありませんでした。
  ソ連時代はソ連共産党が実権を握り、戦略は共産党が決めていました。KGBはソ連共産党の下部組織で、党の指示に沿って動く戦術組織でした。それが今は共産党がなくなって、実権を握っているということです。ウクライナ戦争について言えば、プーチンの独特の歴史観からきています。彼は歴史に関心があり、読書家です。特にコロナのときに帝政ロシアの歴史書を集中して読んでいました。ウクライナやベラルーシはロシアと歴史的一体性にある、ウクライナという国は人工国家であって、存在してはならないんだという歴史妄想を抱いてしまったようです。
  小野寺先生が言われたように、アメリカの失敗という要素もありました。2021年12 月にバイデン大統領がプーチンと電話会談した時に、ロシアがウクライナに侵攻してもアメリカは介入しないとはっきり言っています。これは間違ったメッセージを送ったわけで、先般マクロン・フランス大統領が示唆したように、ロシアが侵攻したらNATO(北大西洋条約機構)の出動もあり得ると厳しい警告を発しておけば、回避できたと思います。アメリカの失敗も今回のウクライナ戦争の背景にあったと思います。