丹羽:それでは講師の皆様にパネリストとしてご登壇を頂き、さらに議論を深めていきたいと思います。
冷戦崩壊から30 年以上が過ぎました。私達はこれを自由と民主主義の勝利と捉えたわけですけれども、中国、ロシアに代表されるように、この権威主義的指導者が引き起こした戦争・軍事行動によって自由と民主主義がかつてないほどの大試練に見舞われております。では、何故このような事態に至ったのか。先ほど小野寺先生は戦争・軍事行動の原因について、アメリカの間違ったメッセージと指摘されました。ですが、そもそもこのアメリカをはじめとする西側陣営が謳う「自由と民主主義の価値」とは、一体何なのか。この点について、小野寺先生、そして坂場先生に伺いたいと思います。
小野寺:これは政治学のテーマでもあると思うのですが、一体どういう形での統治機構が、一番、それぞれの国の成り立ちや国民の最大幸福の追求にプラスになるかという中で、私どもとしてはやはり、個人個人が自由な形での経済活動や発言ができる、そしてその統治機構の1 つとして、公平な選挙を経て、代表を選び、その代表が厳しい国民の視線の中で、一定の政治権力を持って統治機構を進めていくというシステムを一番良いものだと思ってそれを追求し、信じてきました。ただ、それぞれの国の発展過程や歴史の中で色んな統治機構の政策を選択してきていると思いますし、今私どもに直接、懸念や脅威を与えている国を見てみると、やはりそれはその国なりに、どういう政治システムが一番いいのか、それには独裁という形もあるかも知れませんし、独裁的な長期政権ということもあるかも知れません。少なくとも私自身は独裁的な国に住みたくもありませんし、そういう国の国民にもなりたくないと思っています。
丹羽:坂場大使、いかがでしょうか。
坂場:難しいテーマですが、個人的な意見を3 点ほど申し上げたいと思います。1 点目は、自由と民主主義というのは、個人の権利に帰結するものだと思うのですが、今の国際情勢の中では個人の権利よりも国家の利益、安全というものを重視する傾向が強まっていると思います。先ほど国家保守主義、国民保守主義の話をしましたが、その国家に余裕が無いと、なかなか個人の権利を重視する体制を取れなくなって、まさに独裁政権、権威主義、或いは専制主義という政治体制が国家を優先して政治をやる上では都合がいい。そういう性質のものなのではないかと思います。そこに個人の権利に帰結する自由と民主主義を寧ろ軽視する傾向が生まれ、国際情勢が不安定化すればするほど、個人の権利は守られなくなるリスクが高くなっているのではないかということです。