台湾海峡危機政策シミュレーション ―第三者の視点からの所見―

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国立清華大学台北政経学院平和・安全センター執行長/元中華民国国軍参謀総長
李喜明

孫子の「兵法」第一章では、「計算が多ければ多いほど、勝利を得る可能性がより高まる。そして、計算が少なければ少ないほど敗北の可能性がより高まる」としている。この言葉を踏まえることで、私は勝利と敗北の可能性を予測することが出来る。
 この文脈における「計算」という単語は、中国語の「算」という単語の意味を包括的に捉え切れていないかもしれない。私が思うに、「政策シミュレーション」や「戦時シミュレーション」といった言葉の方が中国語の「算」の意味をより正確に捉えている。言い換えれば、孫子は「一方が戦時シミュレーションを繰り返せば、次の戦争での勝率は戦時シミュレーションの数で劣る、あるいは全く行ってない側に比して高まる」ということを示唆している。
 2024 年7 月、日本戦略研究フォーラム(JFSS)は台湾海峡危機や武力紛争を含めたシナリオの政策シミュレーションを開催した。4 回目となった今回のシミュレーションでは、日本内外から多数の参加者が集まった。日本の国会議員、政策研究コミュニティ、専門家に加え、台湾と米国の専門家と元高官らも招待され、シミュレーションをより現実的なものにしていた。
 私は2 年連続でこのシミュレーションに招待された事を光栄に思う。将来のシミュレーションがより現実的かつ日本政府機関のみならず、外国の参加者にとっても有意義なものになるよう、今回のシミュレーションで得られた知見を共有することが私の義務であると感じる。