昨年の秋、ベトナムの首都ハノイにある国家歴史博物館で「チャンパの宝物~時の痕跡~」という展覧会が開催された。
このイベントで最も注目されたのはヒンドゥー教の女神ドゥルガーの銅像である。7 世紀頃の作品と見られるこの高さ2m ほどの立像はもともとベトナム中部の世界文化遺産ミーソン遺跡にあったものだが、2008 年に盗難に遭い、長らく行方不明になっていた。それが2023 年に英国で発見され、昨年1 月にベトナムに返還された。16 年振りの「里帰り」である。
かつてベトナム中部には「チャンパ」と呼ばれたチャム族のヒンドゥー教王国が存在した。中国の史書には「林邑」(のちに「占城」)という名で登場する。紀元2 世紀末頃に建国され、13~14 世紀に中国と中東アラブ世界との中継貿易地として大いに栄えた。しかし、その後、北方に台頭したベトナム族(キン族、漢字で「京族」と表記)の諸王朝の侵攻を受けて南下を余儀なくされ、19 世紀初めに消滅した。長らく王都が置かれたミーソンはベトナム中部の主要都市ダナンから南西60kmほどの小高い山中にその痕跡を残している。