第166回
「ウクライナ戦争後インド太平洋に進むEU:その海洋戦略と日印の重要性」

長野禮子
 
 今回は、スウェーデンから来日中のインド人研究者、ジャガンナート・パンダ氏をお招きし、上記のテーマに沿って話を伺った。
 ロシアによるウクライナ侵略が始まって以降、ウクライナと台湾がよく比較されるが、類似点としては、両方とも民主主義国であり、ウクライナの隣にはロシア、台湾の隣には中国という専制国家大国が存在するということである。相違点としては、ウクライナは独立国家であり、台湾は独立国家ではないということだ。台湾危機の重要性については日米をはじめとし、その具体的対処、抑止力の強化が検討されているが、欧州はこれにどう対応すべきかまだ答えを出せていない。
 米国は、中国はウクライナ戦争で得た教訓と多くの国内問題を抱えていることから、台湾侵攻は5~7年後、或いは習近平主席の3期目の終わりから4期目の始めにかけてではないかと見ている。台湾危機への対応策としては、米国だけでなくNATOとの協力が抑止力になる。価値観を共有する有志国が加わればなお心強い。インドにとっても台湾は重要だ。QUADは台湾問題に触れて来なかったが、地域の安定のために検討すべき重要課題である。
 また、EUのインド太平洋政策はまだ発展段階にあるが、EU4ヵ国(独、仏、蘭、チェコ)はこの問題に高い関心を寄せている。一方、NATOがインド太平洋に出ていくことは現状ではあり得ないし、合意も得られないだろうが、インド太平洋との協力はあるべきだ。NATOとQUADの間では、サイバー、科学技術、宇宙、情報、海運、通信、対中政策などの分野での協力が考えられるが、「同盟」を望まないインドとしては、そのような協力関係は、「枠組み」を作って行うものではないと考えている。つまり、日本とNATOとの間での協力は可能だが、インドにとって、軍事同盟であるNATOとの協力は必然的に制限される。ただ、信頼できる抑止力を得る為に欧州との協力は必要であり、EU・インド太平洋の協力は重要となる。海洋戦略を見ればEUにとって日本とインドとの協力は極めて重要である。
 中国が事を起こせば日米豪が黙ってはいない。従って、インドは軍事同盟に署名する必要もない。中国が台湾を攻撃した際、インドがどう対応するかは、米国や日本がどう反応するかにかかっている。その時の条件、状況次第だ。
 インドを取り巻く国際環境は複雑であり、歴史的にロシアは中印国境紛争でインドを支持してきた。例えば、台湾の民進党の立場はインドにとっては好ましい。もし台湾がこの問題でインドを支持するのであれば、インドは台湾への支持を宣言するだろう。中印国境紛争で中国との交渉材料となる。つまり、軍事同盟も交渉次第ということだ。どの国も「ビジネス」をするものだ。全ては、どのような状況が生起し、どのような交渉がインドと台湾、或いはインドと中国の間になされるかにかかっている。
 
 以上、パンダ氏の話を簡単に記してみた。同盟国を持たないインドの考え方や立ち位置を改めて認識する機会となった。安倍元総理が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」構想をさらに発展させ、互いの国益のために理解を示しつつ、この地域の安全と安定に向けての日印関係の強化、深化に努めていただきたい。
テーマ: 「ウクライナ戦争後インド太平洋に進むEU:その海洋戦略と日印の重要性」
講 師: ジャガンナート P. パンダ 氏(JFSS上席研究員・安全保障開発政策研究所ストックホルム南アジア・インド太平洋センターセンター長)
日 時: 令和4年12月6日(火)13:30~15:30
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