第168回
「『防衛3文書』と今後の日米同盟」

長野禮子
 
 今回は前回に引き続き「防衛3文書」が閣議決定されたことによる米国の見解と今後の日米同盟について、元米国務省日本部長のケビン・メア氏にお話いただいた。以下、メア氏の講演内容の概要を記す。
 
米国「防衛3文書」歓迎
 米国は日本の安全保障政策が以前より現実的になったことを歓迎。「防衛3文書」は、2012年に発足した第二次安倍政権から引き継いだものであり、当時の安倍総理を始めとする菅官房長官、岸田外務大臣、小野寺防衛大臣で取り組んでいたことから、岸田政権で閣議決定されたことの意義は極めて大きい。岸田総理はパシフィスト(平和主義者)のイメージを持たれているが、今回このことが奏功し、目立った反対の声が出なかった。もし安倍政権だったら大変な反対が起きただろう――。
 米国では「防衛3文書」により、ワシントンD.C.での日本の地位とイメージは確実に上がった。これまで日本は米国のパートナーとは言えない部分もあったが、今、日本の反撃能力保有に反対する者はなく、寧ろ日本への期待が増している。「防衛3文書」では、日本が東アジアの平和と安定に寄与することが謳われているが、これは日米安保条約第6条の米国の負担だったものだ。日本の変化を米国は歓迎している――。
 
防衛費増額について
 GDP比2%。5年間で43兆円はいい意味で驚きだった。財務省が台湾有事が実際に起きた場合の経済的混乱を想定し同意に至ったことを評価。
 
統合司令部設置
 1月の日米2+2における最も重要な点は、日本が常設の統合司令部を設置することであり、米国がこれを歓迎したことだ。現在この司令部をいつ、どこに発足させるかが注目されているが、たとえ始めは小規模であっても、肝心なのはスピーディに対処し、設置を急ぐべきだ。米国のインド太平洋軍司令部と日本の自衛隊は共同して調整・運用していくべきところを、これまではインド太平洋軍司令部のカウンターパートが日本側になかった。今までは抽象的なことを言って済ませてきたが、これからは戦術、役割分担など、Battle Management(戦闘管理)の観点から具体的な調整が必要となり、綿密に調整しないと効果は得られない。これは実際のWar Fightingに必要であり、政治や行政の問題ではない。現在設置場所の検討が行われ、市ヶ谷が有力視されているが、横田の方が適当だろう。戦いはプロに任せた方がよい。
 
継戦能力維持の重要性
 特に半導体やレアアースのサプライチェーンの確保が必要となる。同時に自衛隊の人員不足解消が重要である。米軍には住宅手当がある。また、復員軍人援護法があり、退役軍人を支援している。若者には、大学の費用を国防総省が負担し、若い兵士の募集に役立っている。金があっても人がいなければ国は守れない。
 
サイバーセキュリティへの取組
 サイバーセキュリティに関する取り組みは、日本もかなり進んできたが、セキュリティクリアランスが大変だ。日本の一番の問題は、専門的知識を有する人材の不足である。日本の警察が怪しい組織のコンピュータに入って行こうとしないのも問題である。
 
防衛装備移転3原則
 防衛装備移転3原則の変更は政治的に難しい問題だが、日本の覚悟を示すことになる。殺傷能力があるものは輸出できないというが、殺傷能力がないものを欲しがる国はない。その結果、防衛産業が伸びない上、防衛産業の高齢化も進む。日本政府はこれを支援し、次世代に繋げていく必要がある。民間企業の設備拡張はリスク高い。米国のように、政府が施設を持ち、運用は民間が行うという契約にすればよいだろう。
 
台湾有事への米国の取組
 「台湾」は米国内で特別な地位を得ている。台湾有事に米国は「関与しない」は、米国民が許さない。しかし、台湾に自国を守る覚悟がなければ、米国は支援しないだろう。
 
 今回の「防衛3文書」で日本は国際社会にその覚悟を示した。緒についたばかりの3文書をこれからどう具現化し実行するかが問われる。米国を始めとする西側諸国の期待と信頼に応えるべく、国民の理解を背景に「普通の国」への歩みを力強く進めていただきたい。
テーマ: 「『防衛3文書』と今後の日米同盟」
講 師: ケビン・メア 氏(JFSS特別顧問・元米国務省日本部長)
日 時: 令和5年2月7日(火)14:00~16:00
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