第169回
「首脳会談後の日韓関係」

長野禮子
 
 3月16日、韓国の尹錫悦大統領が来日。戦後最悪と言われる日韓の冷え切った関係打開に向けて約5年ぶりに首脳会談が行われた。今回は韓国事情に最も詳しい元駐韓大使の武藤正敏氏をお招きし、これまでの経緯をおさらいしながら、今後の日韓関係についてお話し頂いた。
 韓国人の歴史観は「期待や願望」が優先された「歴史」と言われる。「竹島」「従軍慰安婦」「強制連行」「強制徴用」、また、安全保障では「レーダー照射」問題等々が日韓両国の関係を難しくしてきた。
 今年の3・1独立運動記念日の演説で尹大統領は日本を「軍事的侵略をする国ではなく、協力のパートナー」だと述べた。歴代大統領の発言にはなかったことである。これは政治に「反日」を利用しないという尹氏のメッセージと受け止める。日本側は1965年の日韓基本条約で「解決済み」との立場を堅持し、首脳会談を受け入れ、「改善」への一歩とした。これが観測気球の役割を果たし、韓国では今回の所謂、徴用工問題の解決策も「日本に譲歩した」との批判もあったが、支持率の下落幅は2‐4%と小さく、韓国メディアは、「苦肉の解決策」だと評した。元徴用工を支援する市民団体や弁護士会は「解決はビジネスの終焉」を意味することから猛反発しているが、最近では反日集会に参加するより、日本旅行を楽しみたい若者が増えているらしい。
 尹氏はまた教育・労組改革にも乗り出し、最強硬労組である貨物連帯のストを収拾した。韓国の左派には朴正煕政権下で弾圧された40~50代の人々や親北政策に影響された人々が多く、彼らは今、各界の幹部となっているが、かつての日本製品不買運動や訪日自粛運動の頃の雰囲気はなく、随分様変わりしているようである。経済悪化と親北政策を進めた文政権への反発もあり、若者達は北朝鮮を同胞とは見ていない。これが尹氏支持となったようだ。
 今回の首脳会談は、「失われた10年」の関係回復の出発点と評価する声が多い。「ちゃぶ台返し」をされてきた日本としては、どれほどの信頼を置くか疑問視する声もあるが、それをさせないためにも日本企業2社が「未来パートナーシップ基金」に協力し、中長期的に考えれば、尹政権をサポートした方が良いと、武藤氏は語る。尹氏にとって3月訪日、4月訪米、5月のG7開催前に解決したい思惑もあり、「国益」を重視した外遊が続く。
 今後、日韓のシャトル外交の復活により、懸案事項解決に向けての協議が重ねられることで、東アジアの平和と安定に積極的に取組んで行くことが双方の国益に繋がることは誰もが理解する。“歴史”は「期待や願望」「好き嫌い」で語るものではないことも韓国に理解していただきたいものである。
テーマ: 「首脳会談後の日韓関係」
講 師: 武藤 正敏 氏(JFSS顧問・元大韓民国駐箚特命全権大使)
日 時: 令和5年3月22日(水)14:00~16:00
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