今回は危機管理コンサルタントとして、パプアニューギニアやアフリカ等で長年テロ対策や対人警護、犯罪予防、治安情報の収集分析等に携わりセキュリティマネージャーとして豊富な経験を持つ丸谷元人氏をお招きした。以下、氏からの報告の一部を記す。
2019年2月、アメリカ・アフリカ軍司令官のトーマス・ワルドハウザー将軍(当時)は、米上院軍事委員会の公聴会で「中国人はアフリカにカネを持ち込み、ロシア人は筋肉を持ち込む」と述べた。
近年、ロシアはアフリカ諸国の反仏感情をうまく利用し、その影響力を増大させている。その方法として、ワグナー社(露民間軍事会社)を利用した傭兵、武器と資源の取引、不透明な契約、偽情報を多用したSNS等での心理戦や、影響力を行使するための非合法な手段が屡々見られる。しかし、ロシアは他国と異なり、アフリカに対する経済投資、貿易、安全保障支援は行っていない。経済的見返りは、石油やガス、金、ダイヤモンドといったアフリカ大陸の膨大な天然資源への優先的なアクセスである。戦略的には、地中海東部での足場確保、紅海での軍港アクセス、天然資源採取機会の拡大、欧米の影響力の排除等が考えられる。
一方中国は、2013年からの「一帯一路」政策以降、金銭的にも大規模な投資を行ってきたが、軍事プレゼンスについてはできるだけ見せない姿勢を維持してきた。シーレーンの安全確保とアフリカにおける「クィック・レスポンス能力」確保のため、ジブチにおいては軍事基地を展開したが、最近では、民間軍事会社が活用され始めている。
それに対するフランスの反発は激しい。フランスはセネガル、マリ、コートジボワール等14のアフリカ諸国に対してCFAフランによって間接的経済支配を敷いてきた。14諸国は、CFAフランを「事実上の植民地支配」として反発し、自国通貨の導入を目指したが、その時の国家指導者の多くは不慮の死を遂げてきたという。通貨以外でも、仏政府による天然資源購入の優先的権利・仏企業の契約及び入札の優先・仏製兵器の独占的販売・仏軍の駐留と軍事介入の権利・年資材状況報告の義務・仏政府の許可なしに他国との軍事同盟の禁止・海外の戦争には常に仏軍に従うこと・公用語(教育も)は仏語とする等、独立国としての地位は与えられていない。
かつてジャック・シラク元仏大統領は「アフリカを失えば、フランスの国力を第三世界の水準まで落とすことになる」と言ったそうだが、毎年56兆円とも言われるアフリカマネーは、まさにフランスの生命線として維持されているということである。フランスにとって中露の浸透は脅威だが、現地人はこれを歓迎しているらしい。
最近では中央アフリカで未確認飛行物体によるワグナー社への攻撃が行われ、また中国企業が操業する同国の金鉱では、同国大統領の中国接近というタイミングで複数の中国人労働者が謎の武装集団によって殺害されるという事件が起きているそうだ。
このような状況下で、中露は共に自国民の保護と自国権益の確保(特に地下資源へのアクセス)の観点から、民間軍事会社の強化に力を入れている。アフリカは最後のフロンティアであり、日本にとっても重要な地域である。日本は官民共にセキュリティに対する意識が桁違いに低く、専らセキュリティ会社に依存することで「安心」を買っているが、このままでは資源獲得競争に完全に後れをとることになるだろう。
丸谷氏の話で遠いアフリカと未だ植民地政策を続けるフランスの国柄を知った。先のマクロン大統領訪中におけるウクライナ戦争、台湾有事に対する発言も西側諸国で物議を醸しているようだが、これも国益優先の一環としてはやむを得ないということか。