第171回
「『令和5年版(第66号)外交青書』の説明会」

長野禮子
 
 『外交青書』(以下、青書)は昭和32(1957)年から毎年発行され、「日本外交に対する国民・諸外国の理解を深めることを目的とし、日本の①外交活動 ②国際情勢認識 ③外交政策を記述」したもので、今回で66号となる。
 外務省から横田直文氏をお招きし、『令和5年版外交青書』についてご説明いただいた。
 
外交青書の意義
 青書は2022年を「国際社会は歴史の転換期にある」と位置付けている。ロシアによるウクライナ侵略によって「国際社会の揺らぎ」が起こり、以前から生起しつつあった厳しい国際環境と相俟って、「我が国をめぐる戦後最も厳しく複雑な安全保障環境」が現出したことを意味するとある。
 今年3月、岸田総理はG7で最後となった日本のウクライナ訪問を果たした。国際社会に対し我が国の立場と認識を旗幟鮮明に示したことは大きな意義を持つ。まずは民主主義国家としての役割を果たしたと言える。
 
国際情勢の認識
 青書に「歴史の転換期にある国際社会」という言葉が初めて用いられた。世界は今、「ポスト冷戦期」が幕を下ろし、戦後築いてきた国際秩序、価値観、人権等々が近年新たな局面として顕在化し、多様かつ複雑に絡まり、次の時代が見えて来ない。
 「ポスト冷戦期」から30余年の光と影を追ってみると、90年代の自由で開かれた安定的な国際秩序の拡大であり、それを前提とした経済のグローバル化と相互依存が進み、世界は国際協調に向かうであろうとの楽観論が多勢を占めた。そこには科学技術の進展やインターネットの普及、人・モノ・カネ・情報が国境を越えて動くという「光」の現象が生み出された。
 だが、それらの動きは新興国・途上国の台頭によってパワーバランスが崩れ、国家間競争の激化をもたらした。さらに、米中対立に見るように、既存の秩序への挑戦、力による一方的な現状変更を試みる勢力が臆面もなく出てきて、その正当性を押し付けようとしている。協調と対立が複雑に絡み合う状況へと変化していったのである。正に拡大した光の裏にある「影」、翳りが広がりを見せてきた。
 ポスト冷戦期の問題が、ロシアのウクライナ侵攻により顕在化し、加速化し、拡大した。新興国がものを言うようになり、グローバル・ガバナンスが難しくなってきた。最早、国際社会が1つの価値観の下に収斂することが困難な時代になった。この問題解決には、多国間主義の下、価値観や利害の相違を乗り越える包括的なアプローチで、新興国などとの連携が求められるが、覇権主義を推し進める国家群に効き目のある対策を立てるのは容易ではない。
 
日本外交の展望
 青書の周辺国に対する表現として、ロシアは「中国との戦略的な連携と相俟って強い懸念」、北朝鮮は「従来よりも一層重大かつ差し迫った脅威」、中国は「これまでにない最大の戦略的な挑戦」とした。また、「台湾海峡の平和と安定の重要性」という文言も多く用いている。これは、青書の戦略的コミュニケーションとしての側面である「中国の外交当局に日本の意志を読み取らせる」ことを意図している。同時に、日本が法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に取り組むというメッセージであり、価値観を共有する同盟国・同志国との連携を強化していく意志の表れでもある。G7や日米豪印(QUAD)の枠組がこれに当たる。
 自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の推進も、重要な日本外交の旗印だ。ルールに基づく自由で公正な経済秩序の拡大は極めて重要であり、CPTPPに見るように、日本は自由貿易の旗振り役としてリーダーシップを発揮する意志を持つ。さらに、今次のロシアによるウクライナ侵略に見る国連の機能不全に対する問題も重要である。日本は、今一度国連憲章の理念と原則に立ち返り、安保理改革を始めとする国連の機能強化に積極的に貢献しようと考えている。
 「歴史の転換期」を生きる我々も、外務省が今後どのような時代を目指し、世界に向けての日本外交を展開し、発信していくのか、注目していきたい。

 

テーマ: 「『令和5年版(第66号)外交青書』の説明会」
講 師: 横田 直文 氏(外務省総合外交政策局政策企画室長)
日 時: 令和5年4月26日(水)14:00~16:00
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