今回は、安倍政権で補佐官を務めた宗像直子氏をお招きし、「経済安全保障をめぐる国際情勢」についてお話しいただいた。
昨年末に策定された新安保3文書に初めて経済安全保障の概念が盛り込まれた。国家安全保障の境界が、これまで非軍事とされてきた分野にまで拡大し、平時と有事、非軍事と軍事の境目が分からなくなってきている。経済安全保障というと、経済的威圧に対処することを意味する場合が多く、相手の言いなりにならないための戦略的な自立性・不可欠性を重視することになる。日本がこれを行う場合、単独で対処するのではなく、国際秩序を保ち、強化することを目指すことになる。
2010年、中国は日本を抜き、世界第2位の経済大国となったが、この年、尖閣諸島沖で漁船衝突事件が発生した際、中国は日本へのレアアースの輸出を止め、現地日本人を拘束した。当時の民主党政権(菅直人首相)は、中国漁船の船長を処分保留のまま釈放してしまった。以降、中国は中国に従わない国々に対し、経済的な嫌がらせなど、あらゆる手段で圧力をかけ、自らの政治目的を達成しようと、国際秩序へ挑戦し始めたのである。
南沙諸島の埋め立て問題をめぐり、2016年に国際仲裁裁判所が出した判断を「一辺の紙くず」と無視した。日頃は国連重視と言いながら、都合の悪いことは無視し、国際秩序の「いいとこどり」をする中国。これは安全保障だけでなく通商の分野でも見られる。
中国は2001年にWTOに加盟した。そもそもWTOは経済的威圧や差別が起きないようにするために存在する。だが、これらのルールは今必ずしもうまく行っていない。WTOには、①ルールを作る機能 ②紛争を解決する機能 ③監視する機能――という大きな3つの機能がある。ルール作りは全会一致であり、中国が反対すれば新しいルールは作れない。②については、米国の反対で現在停止中だ。③は、中国が通報を怠っており機能していない。この手の国際機関に一旦加盟すると「拒否権」を得てしまう。そのため、WTOは中国に対して批判できなくなった。つまり、WTOは機能しなくなった。
TPPを作った理由はここにある。WTOの外にレベルの高い者同士が枠組みを作るしかなかった。ここに中国が入るには、国家資本主義を卒業しなくてはならない。中国のWTO加盟の教訓を踏まえ、CPTPPを考えるべきである。
戦後の日本は戦争を経験していない。国全体で有事に備える発想が弱い。企業は圧力を感じていない。日本の国家戦略が理解できていない経済人が多くいる。しかし、日本はニュートラルではない。中国の台頭はグローバルシステム全体への挑戦であって、各国とも我が事として捉えなければならない。米中覇権競争の帰趨によっては、日本の自由と民主主義も損なわれかねない。ことについてもっと国民の理解を高める必要があろう。