第181回
米前政権中枢が語る米大統領選の行方と日米同盟

   今回はJFSS顧問の古森義久氏(麗澤大学特別教授)のご紹介により、フレッド・フライツ氏とスティーブ・イェーツ氏をお招きした。両氏は2021年、ワシントンD.C.に拠点を置く研究機関として開設された米国第一政策研究所(AFPI)の外交政策、中国問題の専門家で、同研究所には前政権時代の閣僚が数多く所属していると聞く。
 両氏は5月の頼清徳新政権発足直後の台湾訪問の後、日本に立ち寄ったところで、日程調整して下さり実現したものである。他に外務省を始め各メディアの取材を受けるなど、タイトなスケジュールをこなしたと聞く。現在、第二次トランプ政権発足に向けて、世界規模の安全保障についてどのようなアプローチを取るべきかを研究していると言う。
 以下、両氏の発言を簡単に記す。
 
 「アメリカ第一のアプローチ」(America First approach)について
 トランプ氏が現役時代からよく口にしている「アメリカ第一のアプローチ」(America First approach)は、専門家と称する人達がよく言う「アメリカ孤立主義」ではなく、海外への派兵や外国との条約交渉といった対外的な場面で常にアメリカ国民の利益を第一に考えるということであり、当然同盟国との関係は重視される。但し、同盟関係を維持するためには同盟国が「公正な負担」に応じるかが重要であるとし、特に北大西洋条約機構(NATO)との関係性を重視していることから、ドイツとフランスに対する懸念を示している。
 また、日韓両国との同盟関係を軽視するのではないかとの報道があるが、それは現実的でない。フライツ氏、イェーツ氏両氏は、ディール・メーカー(交渉人)としてのトランプ氏の発言には誤解されやすい側面もあるが、反トランプ派による偏向報道、偽情報に惑わされず、日米同盟強化を重視しているトランプ氏の本心をしっかり見極める必要があると言う。
 
 米大統領選の行方と焦点となる国内・外交政策
 国境警備はアメリカにとって国家安全保障・国内治安上の重大な課題だが、バイデン政権によって国境警備政策が緩められたことにより、現在は何百万人もの不法滞在を許す最悪の情況となっている。トランプ氏は再選後直ちに南部国境を閉鎖し、犯罪者や違法薬物の売人、中国工作員のアメリカへの侵入を食い止めるだろうと話す。
 外交面ではバイデン政権の中東政策(特にイランに対する宥和政策)はトランプ支持者のみならず、同盟国イスラエルからも厳しい批判に晒されている。再選後は中東政策の抜本的改革がなされ、劇的な変化が期待される政策が打ち出されるだろうと言う。
 米中関係では、イェーツ氏が最近の台湾立法院での事件に触れ、「国民党内からも台湾の政党であるべきか、中国との統一を目指す政党であるべきか、という意見の衝突が見られる。日米は従来通りの政党であるべきとの姿勢を採る。それが共通の利害に繋がる」と述べた。
 また、対北朝鮮では、トランプ・金正恩首脳会談の成果として2022年まで長距離弾道ミサイルの発射実験を止める事に成功したことから、第二次政権発足後は金との個人外交を再開する可能性が高い。フライツ氏はトランプ氏に対して、米朝交渉再開の足枷となっている北朝鮮によるロシア支援中止を進言するつもりであると言う。
 
 第二次トランプ政権の閣僚候補達
 次期政権での閣僚入りが噂されているのはロバート・ライトハイザー氏(元通商代表)、ロバート・オブライエン氏(元国家安全保障問題担当大統領補佐官)、マイク・ポンペオ氏(元国務長官)、そして本日のスティーブ・イェーツ氏だ。一方、前政権時代に国防次官補代理を務めたエルブリッジ・コルビー氏は対中重視に傾いたことにより、トランプ氏の信任はなく、閣僚入りの可能性は低いとされる。
 
 世界で注目を集める米大統領選。「もしトラ」が「ほぼトラ」となり、それが現実となれば「アメリカ第一のアプローチ」が実践され、日米同盟もNATOも大きく後退し、安全保障に対する弱体化が進むのではないかとの分析が報道されているが、その解釈に大きな乖離があったことが明らかになった。国内外メディアによる「トランプ像」の本質を見極めるには、こうした米国に住む専門家の分析を直接聞けたことは有意義であった。
 日本は日本としての国益を追及し、日米で共有する同盟強化を進め、地域の安全保障と安定に万全の備えで臨んでいただきたい。
テーマ: 米前政権中枢が語る米大統領選の行方と日米同盟
講 師: フレッド・フライツ氏・スティーブ・イエーツ氏
日 時: 令和6年6月6日(金)14:00~16:00
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