第182回
『令和6年版外交青書』の説明会

『外交青書』(以下、青書)は昭和32(1957)年から毎年発行され、「日本外交に対する国民・諸外国の理解を深めることを目的とし、日本の①外交活動 ②国際情勢認識 ③外交政策を記述」したものである。
 今回は外務省から権田 藍氏をお招きし、『令和6年版外交青書』についてご説明いただいた。
 
 令和6年版青書は混迷極まる現在の国際情勢を以下の3つの要点でまとめている。
① 法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序に対する挑戦
② 「グローバル・サウス」と呼ばれる途上国・新興国の存在感などパワーバランスの変化がグローバル・ガバナンスに突きつける課題
③ 経済のグローバル化と相互依存の継続による影響
 
 この中で、青書が最重要視しているのは「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」の維持である。東アジアにおいても東シナ海・南シナ海における威圧や中露の軍事連携などを含む一方的な現状変更の試みが続き、我が国は「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境」に直面している。青書は「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」という懸念を念頭に、2017年に当時の安倍晋三首相が打ち出した「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)構想の基本理念である「自由」や「法の支配」に加え、「包摂性」や「開放性」を尊重すると述べている。これにより、FOIPの理念を共有する輪を中東、アフリカ、中南米へと拡大しようとしている。また、日米豪印戦略対話(Quad)もFOIPの実現にコミットし、新興技術などでの実践的協力を推進する。
 日本外交の展望としては、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境下に置かれている日本であるが、青書は「人間の尊厳」という最も根源的な価値を中心に据え、世界を分断や対立ではなく協調に導く事を掲げ、一方、国連を中心とした既存の多国間枠組みが困難に直面する現状において、我が国と同盟国・同志国との連携の重要性が相対的に高まっているとしている。
 対中関係に関しては昨年の青書では記載のなかった、我が国との「戦略的互恵関係の包括的推進」という文言が今年から復活した。政治・経済・軍事において国際社会で大きな影響力を有するに至った中国が「これまでにない最大の戦略的な挑戦」を試みており、我が国は総合的な国力と同盟国・同志国との連携によって対応を余儀なくされている。青書は我が国の対中安全保障にとって欠かすことが出来ない存在である台湾に関して、23年G7広島サミットにおいて合意された「両岸問題の平和的解決」という一文を取り上げているが、中国が「最大の戦略的挑戦」を我が国に仕掛けている中での「平和的解決」とは何かという事を認知戦の観点も踏まえ、常に定義し続けていかなければならない。
 安全保障に関する実務面では、令和5年から実施されている政府安全保障能力強化支援(OSA)はフィリピン、バングラデシュ、マレーシアなど東南アジア諸国との間で着実に進行しており、令和6年度はOSAに前年度比2.5倍の50億円の予算が付いた。外交と安全保障が相互に噛み合った歯車として機能し始めている現在、青書が掲げる我が国外交の「理想」が国際社会の「現実」にどう立ち向かっていくか、その行く末を注視したい。
 
参考:外務省ホームページ 『令和6年版(第67号)外交青書』(PDF)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100653233.pdf
 
テーマ: 
講 師: 権田 藍 氏(外務省総合外交政策局政策企画室長)
日 時: 令和6年7月9日(火)14:00~16:00
ø