『防衛白書』(以下、白書)は昭和45(1970)年から毎年発行され、「国内外の出来るだけ多くの方に出来るだけ平易な形で我が国防衛の現状と課題、防衛省・自衛隊の取り組みについて周知を図り理解を得ること」を目的としている。
今年は自衛隊発足70周年であると共に防衛白書が初版から50回目の発行を迎えた節目であり、表紙のコンセプトには我が国の防衛力、抑止力が戦略三文書を踏まえて順調に強化されつつある様と今後もたゆまぬ努力を続ける決意を表明する意味で「刀鍛冶」の絵が採用された。
今回は防衛省から弓削州司大臣官房審議官をお招きし、『令和6年版防衛白書』についてご説明いただいた。
令和6年版白書は下記4つの点に重きを置いている。
①不確実性を増す我が国を取り巻く安全保障環境
②防衛力の抜本的強化の7つの分野の進捗
③防衛生産・技術基盤、人的基盤
④国全体の防衛体制強化のための取り組み
我が国を取り巻く安保環境の中で、白書は特に中露軍事協力の深化と中台軍事バランスの変化を取り上げている。ロシアは台湾独立に反対し、中国もNATOの動向に重大な懸念を示すなど中露両国は互いの「核心的利益」を相互に支持する姿勢を確認し、国際社会に対して「戦略的連携」を広くアピールしている。中台軍事バランスは全体的に中国側に有利な方向に急速に傾斜しつつあり、特に2024年5月の中国による台湾周辺での軍事演習では海警船の演習参加や台湾離島周辺での演習実施が初めて公表された。人民解放軍と海警の連携や台湾離島での作戦を含む台湾侵攻作戦の一部が演練された可能性が高い。
このような風雲急を告げる周辺情勢に対処するため、我が国は戦略三文書を踏まえた「7つの分野」での防衛力の抜本的強化を引き続き推進している。このうち、令和6年度はスタンド・オフ防衛能力において12式地対艦誘導弾能力向上型(地上発射型)の配備とトマホーク巡航ミサイルの取得を1年前倒して令和7年度から行うことを決定し、統合防空ミサイル防衛能力では極超音速滑空兵器(HGV)対処のための滑空段階迎撃用誘導弾の日米共同開発も決定。また、日豪・日英円滑化協定の発効、日米韓による北朝鮮ミサイル警戒データのリアルタイム共有など同志国などとの連携も深化しつつある。指揮統制面でも、今年度末には陸海空自衛隊の一元的な指揮を行い得る常設統合司令部として「統合作戦司令部」の新設が予定され、「7つの分野」の1つである領域横断作戦の平素からの能力練成が可能になる。
我が国を巡る安全保障環境は過去に例を見ないほど厳しい状況に陥っている。白書表紙の「刀鍛冶」には自衛隊が発足以来、「刀を抜かないために」必死で抑止力たる刀を鍛え上げ、我が国に対する武力侵攻を未然に防いできたという意味も含まれている。その「抜かずの刀」はスタンド・オフ防衛能力や領域横断作戦能力といった新しい要素を取り入れつつ、時代と共に進歩してきた。これから変化が求められるのは我々国民の安全保障に対する意識であろう。
質疑応答では、今年も「専守防衛」不要論の話題で白熱した議論が交わされた。
参考:防衛省ホームページ 『令和6年版(第50号)防衛白書』(PDF)
https://www.mod.go.jp/j/press/wp/wp2024/pdf/R06zenpen.pdf