第184回
大丈夫か、石破政権

 今回はJFSS政策提言委員の田北真樹子氏をお招きし、石破政権の危うさや高市氏の自民党総裁選での敗因などについてお話いただいた。
 以下、同氏の発言を簡単に記す。
 
大丈夫じゃない「石破政権」
 石破氏が自民党総裁に選ばれた理由は安倍氏とも岸田氏とも違う批判勢力としてこれまで様々な言論を展開してきた点にある。だが、石破氏は総理就任後、今までの批判を全て封印してしまったため、石破氏に票を投じた自民党員の間では「話が違う」として不満が高まっている。
 石破氏の「政権批判」は中身について殆どアップデートされていない中で好き放題に批判していたことが明らかになってしまった。言ってみれば「いい加減な発言」を繰り返していた。同氏は総理就任後に国家安全保障局や公安調査庁など各所からブリーフィングを受けることで、「自分の認識は間違っていた」という結論に至ったと思われる。その最たるのが北朝鮮による日本人拉致問題である。石破氏は長年、問題解決のための連絡事務所を東京・平壌に置くと言っていたが、先週拉致被害者家族会と官邸で会った時には、この件について積極的な言及は避けた。これも「勉強」の成果ではないか。
 本当に危惧すべきは、石破氏が「自我に目覚めた時」、「自分の原点に戻り始めた時」だと田北氏は語る。これまでに確立した「石破ブランド」がある以上、彼はどこかで自我に回帰する可能性は否定できず、特に安全保障の面では自身を「安全保障のプロ」と認識しているため極めて危ない。但し、石破氏が防衛庁長官や自民党幹事長を務めた時代と今の日本を取り巻く安全保障環境は劇的に変化しており、今後自身の認識をアップデートすることが出来れば、国民にとっての不安材料は軽減される。
 
総裁選での高市氏の敗因
 高市氏が総裁選で敗北したことに関して、自民党員、自民党支持者の間で不満が高まっていることが、党内における最大の不安定要因となっている。一次投票では国会議員票(今回は368票)と党員・党友による地方票(約105万人の党員・党友票を合算し各候補者に比例で配分)があるが、決選投票では地方票が各都道府県1票ずつの47票となるため、自ずと国会議員票の比重が増す。2012年9月の総裁選で安倍氏が石破氏に逆転勝利した際もそうだったが「国会議員票を多く獲得した候補者が総裁になる」という現象が続いてきた。「国会議員は地方票に従うべきだ」という構造が生まれたのは小泉政権の時代だったが、現在では国会議員票の比重が増している。自民党の国会議員は派閥の締め付けが弱まった分、早朝から夕方まで活発な勉強会をするなど互いの力量を把握し、自ずと人間関係も篤くなり、よい環境にある。
 そんな中、高市氏が総裁選に出馬出来るまでに成長したのは、21年の総裁選で安倍氏の後押しがあったからこそであることは周知の通りだが、今回は高市氏の「支持者への配慮に欠ける」という前回の人物評が自身の足を引っ張った感が強く、事実、高市氏から離れていった国会議員も少なくない。一方、今回の総裁選で高市氏が多くの地方票を獲得するとの分析もあり、高市氏に懐疑的な見方をしていた国会議員の回帰もあったと聞く。
 このような状況下、地方票では1番が東京都、2番目が神奈川、3番目が埼玉、4番目が茨城だが、そのうち上位3つを高市氏が獲得した事実は侮れない。しかし、都道府県単位の決選投票では石破氏に敗れた。これは、決選投票前の5分間の両者の演説内容の影響が大きかったのではないか。石破氏は能登半島地震や豪雨災害への見舞いや自らの不備について謝罪した上で、「日本を守る」演説をコンパクトに纏め、ブレなかった。一方、高市氏はまず自身が「女性候補」であることを前面に出した上で、石破氏同様、見舞いや支持の礼を述べたが、極めつけは演説の最後に、高市氏がこれまで批判的であったはずの自公連立を「是」とし、支持者・支援者の期待を裏切る形となってしまったことだ。自ら「サッチャー」(強い指導者)を標榜している高市氏は、結局「乾坤一擲」、ここぞという場面では弱い政治家なのだということが露呈してしまった。
 
衆院選の見通しと今後の政策的継続性
 27日投開票まであと5日。新聞には「自民党単独過半数割れか」の記事が躍る。自民党あるいは自公連立で過半数を取れば、石破政権は「危機を克服した」となるが、逆の結果が出れば来年7月に選挙を控えた参院議員たちから石破降ろしの声が上がるのは必至となろう。
 日本の今後を占う衆議院選挙。我が国の行く末を厳しい目線で注視していきたい。
テーマ: 大丈夫か、石破政権
講 師: 田北 真樹子 氏(JFSS政策提言委員・産経新聞編集局編集委員室長兼特任編集長)
日 時: 令和6年10月21日(月)14:00~16:00
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