第186回
この政権はどこへ行く?ー首相補佐官に聞くー

 今回はJFSS顧問・内閣総理大臣補佐官(国家安全保障担当)の長島昭久氏をお招きし、JFSS政策提言委員・産経新聞編集局編集委員室長兼特任編集長の田北真樹子氏を聞き手として主に来年1月の第二次トランプ政権誕生に伴う日米同盟への影響についてお話を伺った。
以下、長島氏と田北氏の発言を簡単に記す。
 
安倍昭恵氏がトランプ次期米大統領との橋渡しを務めた
 まず12月15日に行われた安倍昭恵氏とトランプ次期米大統領の夕食会について、安倍元総理と第一次政権時代のトランプ大統領との信頼の深さによるものと、高く評価した。
 また、トランプ氏の「日本政府側からのアプローチがあれば、石破総理とはいつでも会う準備がある」との言葉が得られたことも、今の日本にとって有益だと述べた。来年1月20日の大統領就任式典前に石破総理とトランプ氏の会談が実現するかは不透明だが、トランプ氏から上記の言葉を引き出したという点で昭恵氏の果たした役割は大きい。
一方、日本政府が模索していた11月の南米でのG20後のトランプ氏との会談が不発に終わったことで、日本の国内世論の石破批判が高まっているとの見方だったが、長島氏は「我々政府としては外野の声に係ることなく米政府との関係構築に注力したい」と述べた。
 
第二次トランプ政権誕生で混乱は起きるのか
 第二次トランプ政権の閣僚指名者や実務者には優秀な人物が多いが、第一次政権時代にはトランプ氏の「感情」で政策が変わることが多々あった。第二次トランプ政権における「各種政策の継続性」を確認するため、11月に訪米した長島氏は「トランプ氏の姿勢は基本的には変わらない。4年間の準備期間中にトランプ氏に忠実な人物らを閣僚候補者に指名するための審査を重ねた。今回は秩序立った政権移行となるだろう」と述べ、「日本政府としては第二次トランプ政権の『上意下達』のスタイルは常に意識しておかなければならない」と付け加えた。更に「米国務長官や国防長官、国家安全保障担当大統領補佐官には日本政府の考えをしっかり伝え、これら米政府高官からトランプ氏に日本の考えをしっかり伝達してもらう仕組みを考えておかなければならない」と強調した。
 
日本の今後の安全保障政策と親和性が高いトランプ氏の安全保障観
 長島氏は第二次トランプ政権が掲げる2つの政策を例に挙げた。具体的には1)大統領就任後100日間は米の内政改革に注力する 2)対外政策ではウクライナ戦争と中東紛争を終結に導くことに注力する―というものだ。更に「これは対外政策の面でインド太平洋の安全保障を軽視するという意味ではなく、第二次トランプ政権はこれまでのやり方を踏襲し、インド太平洋の安全保障へのコミットメントを変化させることは無い」と付け加えた。
 トランプ氏の基本的な安全保障観は「力による平和」であり、戦争は避けるが抑止力を最大限活用する。また、各国に自国の国防に対する「自助努力」を要求し、出来ないのであれば米が手助けするが、その分の費用負担を各国政府に求めるというものだ。「その流れの中で日本は2027年までに防衛費の対GDP比2%への増額を目指すが、そこから先は安全保障環境を見据えつつ日本が独自に判断を行うだろう。日本が自国の防衛力向上のために自助努力を続けることはトランプ氏が掲げる安全保障政策との親和性が高い」と述べた。
 
第二次トランプ政権は現在進行中の対外政策の多くを継続する
 長島氏は11月の訪米を通じて、指揮統制構造の改革、南西諸島方面の日米共同プレゼンス拡大、ミサイル・弾薬の共同開発、日米両国政府が防衛装備品の開発・生産、維持整備を促進するために新設した定期協議「DICAS(ダイキャス)」など第二次トランプ政権における米の「対日政策の継続性」を確認した。
 トランプ氏は二国間の「ディール(取引)」を重視する印象が強いが、長島氏が米現地で確認したところでは日米韓、日米豪印(クアッド)、日米比といった多国間の枠組みを重層的に組み上げることでインド太平洋地域での抑止力と対処力を強化する重要性もトランプ陣営内で認識されており、多国間協調も政策として継続するとみられる。
 但しトランプ氏個人が「大統領としての意向」という形で、「政策の継続性」を超越する可能性は残されている。具体例としては北朝鮮の金正恩委員長とのトップ会談などが考えられる。トランプ氏独自の動きに関しては、日本側も臨機応変に対応していく以外、選択肢が無いというのが実情だ。
 日米台を含めた世界の安全保障環境がより厳しくなると予想されている2025年、石破総理は「有事の宰相」たり得るのか。長島氏からは今回、日本にとって最も重要な同盟国である米国の最新動向を伺うことが出来た。米側の動きを踏まえると、まさに石破政権の信念が問われる年となるであろう。
テーマ: この政権はどこへ行く?ー首相補佐官に聞くー
講 師: 長島 昭久 氏(JFSS顧問・内閣総理大臣補佐官(国家安全保障担当)) 聞き手:田北 真樹子 氏(JFSS政策提言委員・産経新聞編集局編集委員室長兼特任編集長)
日 時: 令和6年12月18日(水)17:00~18:00
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