1月20日、第二次トランプ政権がスタートしたその日、トランプ氏は26の大統領令に署名し、第一次政権に続く「米国第一主義」を内外に示した。自らを「タリフマン」と呼ぶらしいトランプ氏は、早速、カナダ、メキシコ、中国への関税措置を表明。また、「メキシコ湾」を「アメリカ湾」に、グリーンランドを米国の所有に、パナマ運河の管理、運営権を米国に戻し、NATO、欧州諸国の防衛費を2%から5%に、移民問題への取組・・・等々、強気の発言が続く。その殆どが中国の覇権主義拡大による安全保障強化政策に繋がる。
今年初の「Chat」は、ケビン・メア氏をお招きし、第二次トランプ政権における今後の日米同盟の行方などについてお話いただいた。まず、政権の最重要ポストの1つである国務長官にはマルコ・ルビオ氏を任命したが、国防長官のピーター・ヘグセス氏は巨大組織を管理した経験は無く、国防副長官のスティーブン・ファインバーグ氏は小規模な投資ファンドを管理した経験しかない。経験不足、かつ無名な政治家が多いようだ。しかし、これまで日米同盟は幅広く成熟した関係を構築してきたし、敵対する中国問題でも認識を共有していることから、同盟関係への大きな変化は生じないと氏は言う。
2月7日は初の日米首脳会談だが、石破首相に期待を寄せる声は聞こえて来ない。所謂「お土産」も準備されているようだが、トランプ氏が石破氏の理屈っぽいネチネチした話に真摯に耳を傾けてくれるかを心配する声の方が多い。安倍氏とトランプ氏に見てきたような親密な関係を築くことはまずないことは確かだ。
石破氏は衆院予算委員会で「(日米)同盟を新たな高みに引き上げる」と述べた。覇権主義を強硬に推し進める中国に敢然と向き合うトランプ氏だが、石破氏はどのような国家戦略でこれに臨み、かつトランプ氏との信頼関係を築き「高みに引き上げる」のか。自由で開かれたインド太平洋、クアッド、核保有国を隣国に持つ日本の立ち位置と役割についての理解と共有は果たしてどこまで発展するのか。台湾有事についてはどうなのか。
大統領就任前の1月7日、トランプ氏はNATO加盟国に対しGDP比2%から5%の防衛費増額を要求し、バルト三国や東欧諸国からは既にこれに同調する声が相次いでいる。日本への増額も求められる可能性が高いとされる中、メア氏曰く、日本は「防衛力整備計画」に基づき防衛予算を大幅に増額したこと、F-35戦闘機やイージスシステム等、防衛装備品の購入を増やしていること―この2点をアピールすべきとした。また、在日米軍の経費負担増についても、増額分は寧ろ「日本の防衛能力向上」のために充てるとした方が賢明であるとメア氏は言う。
前政権から一転して次々と大統領令と大胆な発言で強いリーダーシップを繰り広げるトランプ氏は、やはりディールの達人なのかも知れない。明らかに誤解を招く物事であれ大胆に投げかけ、反発や物議を醸しながらも、そこに相手側と国益をかけた対話が生まれ、問題の本質と対峙する。調整可能か、制裁か、戦争へと進むのか。そこには相当の覚悟なしでは動けないはずだが、それも全て想定内なのだろう。
21世紀の四半世紀を生きる今、我々が見る世界は分断と対立と殲滅の世紀として歴史に刻まれるのであろうか。世界で最も強いリーダーを据えた米国の動向が注目される。