第188回台湾の半導体事業を取り巻く日台関係と今後の課題

 今回は台湾のシンクタンク「国防安全研究院」(INDSR)から林彦宏氏をお招きし、主に世界最大の半導体製造企業である台湾のTSMCを中心に現在の日台関係と今後の課題についてお話いただいた。林氏はJFSS主催による世界初の公開シミュレーション「台湾海峡危機政策シミュレーション」に2年前から参加している。
 猛烈な勢いで世界に拡大するTSMCは今後、米国アリゾナ州に3工場の建設を予定しており、日本の熊本でも第2工場の計画が進んでいる。台湾本国では最先端の1.4nm(ナノメートル)プロセスの半導体製造計画が新竹や台中、高雄工場で進められている。林氏は「半導体のプロセスは小さければ小さいほど性能が良い。1.4nm半導体は計算能力が非常に高い為、AIに用いられる。何よりTSMCはこの1.4nm半導体で成功率98%という世界最高の製造技術を誇る」と述べた。
 日本でもラピダスの北海道工場の計画が進んでいるが、残念ながら現段階で製造が予定されているのはTSMCレベルに遥か及ばない40nmの半導体だ。また、TSMCにあってラピダスに無いのはサプライチェーンだ。1日3交代、24時間体制で稼働するTSMC新竹工場の周りには500社ほどのサプライチェーン企業があり、電話一本ですぐに駆け付けて来る。
半導体は今や国際経済だけでなく国際政治をも左右する戦略物資だ。同じ民主主義国家である日台は無理に競合するよりも相互に連携することが大事になってくるのではないか。
 経済面でTSMCが好調な一方、台湾の国内政治は厳しい。与党民進党は立法院で過半数割れし少数与党に転落。堅実に積み上げてきた防衛費も最大野党の国民党の抵抗によって多くの分野の予算が凍結された。頼清徳政権は中国の偽情報やサイバー攻撃への対処といった「レジリエンス」(困難や逆境を乗り越え回復する力)を最大の政策として掲げている。政府の各部署にも実現の為に発破を掛けているだけに国民党の激しい抵抗にはさぞ歯痒い思いをしていることだろう。
 中国の動きはどうか。林氏曰くアリババ創業者のマー氏のような中国共産党が追放した人材を呼び戻すほど中国経済の状況は悪く、台湾への武力行使は中国国内の状況が安定するまで恐らく出来ないのではないかとのことだ。半導体についてもオランダのASML社が先端半導体の製造に必要な極紫外線(EUV)露光装置を独占しており、アメリカが中国への売却を厳しく止めている。そのため、中国は先端半導体の製造を試みてはいるが上手くいっていない。
 今回は主に台湾のTSMCが世界シェアの6割を有する半導体の観点から日台関係や台湾の政情、中国の動きなど様々な話題と今後の課題を伺うことが出来た。
 2025年の世界は第二次トランプ政権の発足から激動続きである。台湾は国際関係の大きな変化に気付き行動している。果たして日本の現政権に現状を理解し、それに対峙する国際感覚と覚悟はあるのか。

 

テーマ: 台湾の半導体事業を取り巻く日台関係と今後の課題
講 師: 林彦宏氏(JFSS上席研究員(政治学博士)・台湾「国防安全研究院」秘書室主任)
日 時: 令和7年2月20日(木)14:00~16:00
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