今回は前駐パラグアイ大使の中谷好江氏をお招きし、遠く南米の国パラグアイについてお話いただいた。中谷氏は女性初の駐パラグアイ日本大使であり、2020年9月の大使就任当時、約150名の日本大使の中で5名いた女性大使のお一人であった。
パラグアイの国土面積は40.7万㎢、日本の約1.1倍、人口は埼玉県とほぼ同じの約700万人。ブラジル、アルゼンチン、ボリビアと国境を接し、「南米のへそ」と呼ばれる内陸国である。政情不安定な国が多い南米にあってパラグアイの政治は非常に安定しており、特に1993年の民政移管後は日本の自民党政権に似た中道右派政権が誕生し現在に至る。
地理的には平地が多く、「北海道のような国」だという。パラグアイは大豆、牛肉の輸出国でもあり、中谷氏は特に牛肉は日本人の口に合うことから、日本への輸出実現に向けて努力することに期待を寄せた。穀物自給率は200%超を誇るとか。カロリーベースの食糧自給率がわずか38%の日本としては羨ましい限りだ。
パラグアイはまた「ひとひらの肉で魂は売らない」という「侍魂」の国でもある。大の親日国である同国はFOIP、ALPS処理水の海洋放出でも日本への支持を表明。国内に居住する約1万人の日本人/日系人コミュニティには「古き良き昭和の日本」がそのまま残っており、美しい日本語が健在しているという。今の日本語の略語を理解できない私にとっては何とも嬉しい話であった。
一方、経済面では極端にリスクを避ける日本企業の撤退が相次ぐなど「政熱経冷」の状態が続いているそうだ。この状況を尻目に欧州企業は続々とパラグアイに進出している現状を聞くと、今の日本人には約90年前、パラグアイに渡った日本人移民の「開拓精神」は失われてしまったのかと残念に思う。
台湾は過去6年間で6ヵ国との「断交」を余儀なくされた。現在12ヵ国との外交関係の中でパラグアイは1957年以来、南米で唯一、台湾外交を維持している国である。世界的なコロナ禍にあった2021年には中国がワクチンを餌にパラグアイに台湾との断交を迫ったこともあったが、当時のパラグアイ政府は頑としてこれを受け容れず、中国からの外交圧力と反政府的な国内世論の批判に耐えた。
台湾とパラグアイは、自由・民主主義・基本的人権の尊重・法の支配といった「普遍的価値の共有」に加え、実利的な経済の結びつきを強化し、2018年には両国間で自由貿易協定が発効、貿易額は3.3倍に増えた。また、台湾によるパラグアイ支援も手厚く、パラグアイでの川魚の養殖支援や機動隊へのバイク提供等に加え、1,000人以上のパラグアイ人学生に奨学金を提供し技術者として育成してきたという。
日本、そして米国が、台湾の主権を支持するパラグアイを支援すること、それ即ち我が国の国益に繋がるということである。
混迷、対立、分断と無秩序な世界へと広がりつつある今、価値を共有する国との関係強化はあらゆる面での安全保障に繋がる。地球の反対側にあるパラグアイに思いを馳せた有意義な会であった。