5回目の赤沢経済再生担当相の訪米を経ても尚、「トランプ関税」に対する日米両国間の溝は埋まらなかった。14日に6回目の日米閣僚協議が予定されており、15日からカナダで開催されるG7では石破・トランプ会談が行われる見込みだ。今回は妥結の見通しが立たない日米関税交渉が延々と続く中、ケビン・メア氏をお招きし、日米同盟の今後と米国の内政事情についてお話頂いた。
メア氏は米国務省日本部の経済担当官として、バブル期の日米貿易摩擦に対処した過去を持つ。その最中にも、日本は米国から当時の最新防衛装備を次々に購入し、日米共用の三沢基地の強化も行われた。現在は当時ほど日米間の貿易摩擦が激しくないことからメア氏は今後の日米交渉の行方を楽観的に捉えている。
メア氏の今後の日米交渉における日本へのアドバイスは、米国の造船産業への投資や米国産エネルギー資源や農産物、米国製防衛装備の輸入拡大を「パッケージ化」して提案することだ。パッケージ内の米国製防衛装備には次期防衛力整備計画で検討されるであろうF-35B戦闘機の追加購入、自衛隊の弱点である戦略的空中給油能力を補うKC-130J空中給油機や南西諸島有事では必ず必要になる大型輸送ヘリのCH-53K導入などを盛り込むことが重要だとメア氏は述べた。
日本側が新・防衛三文書で計画していることをパッケージとして提案し、トランプ大統領に「俺が実現した」と花を持たせるのも一案かもしれない。また日本側が台湾有事において米国と合同作戦を行う覚悟を米側に伝えることで、中国を米国にとっての最大の脅威と捉え「日本人は我々にとって良い友人だ」と世界の中でも日本と日本人を特別視しているトランプ大統領を動かせる可能性もある――メア氏の話を聞いて今後の日米同盟の在り方が見えて来た。
片や米国の内政はかつての民主党・鳩山政権のように経験の無い素人ばかりを要職に就けた結果、混乱が続いている。ベッセント財務長官との殴り合いの喧嘩でついにトランプ大統領から完全に見放されたDOGE(米政府効率化省)主導者のマスク氏、ハリケーンの季節がいつなのかも知らないFEMA(米連邦緊急事態管理庁)長官など例を挙げればきりが無い。一時期話題になったUSAID(米国際開発庁)の閉鎖も元はマスク氏がDOGE時代に言い出したことだった。結果、これまで海外援助の為に大量購入されていた米国産農産物の行き場が無くなり、関税戦争の影響で中国にも輸出出来なくなり、米国の農家は困っているという。
一方で政権内にはヘグセス国防長官のように政治の経験が無くとも、側近の言うことに耳を傾ける度量のある人物もいる。政治の経験が豊富で、東アジア通のルビオ国務長官も言うまでもなく政権内の優良株だ。
質疑応答では「トランプ大統領は対中強硬派ではなく、状況次第で中国ともディールをするのではないか」という質問が出た。メア氏は「自衛隊の統合作戦司令部と米インド太平洋軍司令部が台湾有事の際の日米共同作戦計画を事前に立案しておくことで日米首脳も台湾有事に向けて協調し易くなるのではないか」と述べた。
また台湾有事の際の日米共同作戦に関連して、憲法改正についても活発な議論があった。メア氏は第9条が否認している「国の交戦権」を英語の”Right of Belligerency”からの誤訳だと指摘した。侵略戦争だけならまだしも、防衛戦争すら禁じている現状はおかしいと述べ、憲法改正の必要性に言及した。
出口の見えない日米関税交渉が続き、中国空母2隻が初めて太平洋に同時進出した一方、国会では7月の参院選を前に、野党が内閣不信任案を武器に石破政権を弄んでいる。この「国難」とも言える状況で、石破政権に日本を委ねたままで良いのか。対外関係や国内政治の厳しい現状を見ると、メア氏の提案の数々も「石破後」にしか実現し得ないであろう。