第193回日本が貧しくなった原因を振り返る

 師走も中旬を過ぎた今回の「Chat」は、経済安全保障アナリストの平井宏治氏をお招きし、表記のテーマで詳しくお話いただいた。

 世界第2位の経済大国であった当時の日本では、終身雇用制度と年功序列制度が採用され、誰もが失業を心配せずに定年まで働くことができた。1970年代半ばの日本は、人口の年齢構成が若かったことや所得の高い伸びなどの要因で、一定期間に家計が得た可処分所得(手取り収入)のうち、消費に使わずに手元に残った貯蓄割合が、20%を超えていた。国民所得に占める税金と社会保険料の合計額の割合を示す国民負担率は昨年度45%を超えた。2023年度は、貯蓄割合が1.5%になり「手取りが少なく貯蓄できない」の声が広がっている。なぜ、日本は貧しくなったのか。

 1975年当時、1年ものの定期預金で年間8.0%程度の金利があり、家計が銀行に預けたお金が、企業などへ融資され、日本企業は強力な資金調達力を誇った。政府は、銀行、生命保険、損害保険、証券会社などの金融機関が固定手数料を稼ぐ事ができるようにし、金融業界は高い収益力を維持し、1980年代後半まで、銀行業界は高収益を稼ぎ出す安定した産業だった。外国資本から日本の産業を護る事を目的として株式の持ち合いが行われた。日本の自動車企業は、利益を株主に配当せず、その資金を研究開発に投じ、より効率的かつ高品質な自動車を生産することに注力した。オイルショックで、米国の消費者に日本車の良さが評価され、1980年、日本の自動車生産量はアメリカを抜いて世界一になる。深刻な売上減少に直面した米国の自動車業界は、全米自動車メーカーのトップが大統領に書簡を送り、日本へ自主規制働きかけを正式に要請する事態となった。こうして、日本経済が安定的・継続的に成長を続け、金融資本が日本の国内市場に蓄積されたのだ。

 米国は内心日本の経済繁栄が面白くなかったが、宿敵ソ連が存在した以上、表立って日本叩きを控えたが、欧米は水面下で日本経済潰しの準備を進めていた。プラザ合意で1ドル240円であった為替相場は、1年半で150円にまで円高が進んだ。日銀は円高対策として公定歩合を5回引き下げた。金融緩和で資金が土地や株式市場に流れ込み、価格が実体経済からかけ離れて高騰し、バブルが発生した。

 1988年、銀行の健全性維持のため、国際業務を行う銀行の自己資本比率に8%以上を求めるBIS規制が設けられた。日本のメインバンク・システムを解体させ、米国主導の金融秩序へ移行させる狙いがあった。1990年、公定歩合引き上げ、総量規制などの金融引き締め政策によりバブルが崩壊を始める。持ち合い株式の価格が下落すると、自己資本比率が下がるので、持ち合い株式は解消されていく。金融機関の自己資本比率を高めるために資産を減らす必要があり、貸し渋りや貸し剥がしが加速した。

 鄧小平の韜光養晦にまんまと嵌められた米国は、中国を巨大市場と思い込み、WTO加入を認め、グローバルサプライチェーンに組み込み、世界の工場として扱った。ブッシュ(パパ)大統領、クリントン大統領、ブッシュ(息子)大統領、オバマ大統領と、歴代の米国大統領は関与政策を掲げ、中国の経済力を強めた。その一方で、日本のメインバンク制度や終身雇用、年功序列などの強みは徹底的に壊されたのである。

 これらの行動の背景にあるのが、新自由主義とグローバリズムだ。新自由主義の主張は、①小さな政府、②「市場は知っている」で知られる市場万能主義、③「勝ち組」「負け組」強者総取りで知られる自助精神と競争社会の実現である。新自由主義社会の米国では、2025年第二四半期終了時点で、全米世帯の上位1%が米国の資産の36%を所有する一歩委で、下位50%の世帯が米国の資産の5%を分け合う状況にある。この格差社会を勧めたい民主党と新自由主義に反対する国民が支持するトランプ氏が、前回の選挙戦を争い、トランプ氏が二度目の大統領に返り咲いた。トランプ大統領は、米国の製造業と中産階級を復活させると公約し、新自由主義や経済のグローバル化に否定的である。

 日本でも新自由主義的政策が導入された結果、株主への配当を増やすため、正社員から非正規社員への切り替えが進められ、就職氷河期と呼ばれ、正社員になれない国民が大量に生まれた。彼らは有期雇用であるため、将来の生活設計のめどが立たず、結婚を断念した者も多い。これが少子化に拍車をかけ、人工ピラミッドに異変を起こしている。

 グローバル企業が利益を極大化するには、労働者を保護する法律や環境規制がない方が好都合であるので、政府や行政と利益相反を起こす。このため、グローバル企業は、政府による規制をなくそうとする動機を持つ。この目的を実現するには、社会を不安定にする必要が出てくる。そこで、人件費のコストダウンと社会の不安定化の一石二鳥を狙う移民政策が推進される。

 異文化および一神教を信仰する移民が大量に入り込んだ場合、日本社会は分断され、水や空気のように存在した日本語、日本史、日本文化などを共有し、「我々は日本人だ」と了解しあう日本人の一体感や国民意識は失われ、日本人の共通意識に基づいて安定して機能してきた法律や政策、行政を破壊される。伝統や文化は、一度破壊されてしまうと二度と復活することができない。

 米国の思想家チャリー・カーク氏は、「国民的アイデンティティのイメージを持たなければ、大きな問題に直面する。アメリカの国民的アイデンティティは日本とは違う。日本は『民族性』に根差している。うまく機能していて信じられないほど素晴らしい。日本は理念国家ではない。日本は1つの『国民』です。民族性に根差しており、1つの系譜を持つ国で、それが驚くほど上手くいっています。日本は世界でもっとも古く偉大な文化と文明を持つ国の一つである。グローバリスト勢力がうまく機能しているあらゆる文化や都市を破壊しようとしている。」と指摘した。

 経済のグローバル化の恩恵を受け、国民総生産世界2位となった中国は、力による国際秩序の現状変更の野望を隠さなくなり、米中対立は先鋭化している。菅義偉、岸田文雄、石破茂政権では、地球全体を1つの共同体と見做し、経済・政治・文化・宗教などあらゆる領域で国境の壁を取り払い、ヒト・モノ・カネ・情報の自由な移動と世界の一体化を推進しようとするグローバリズムに基づき、自由貿易、市場経済の拡大、競争社会を重視し、新自由主義的政策を加速してきた。トランプ政権が日本の自立を求めている今こそ、新自由主義的政策から転換する好機である。

テーマ: 日本が貧しくなった原因を振り返る
講 師: 平井宏治氏(JFSS政策提言委員・経済安全保障アナリスト)
日 時: 令和7年12月16日(火)14:00~16:00
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