第194回総選挙後の高市外交

産経新聞の特別記者・湯浅博氏に「総選挙後の高市外交」について話を聞いた。
 先の総選挙で、高市早苗首相は大きく分ければ2つの敵と戦ったといえる。国内の野党勢力と専制国家の中国だ。もし高市首相が敗北、あるいは僅差で政権をとっていたら、対中ばかりか対米でも苦境に立たされていただろう。3月19日には訪米することになっており、トランプ大統領は安倍晋三元首相のように選挙に強く、偉大な同盟者を尊重する。今回は自民党が圧勝して 3分の2を取ったことにより3月訪米の必要条件が整った。弱体政権になれば、訪米ではトランプ氏から軽視されがちになり、習近平氏は「効果があり」とみてさらに対日圧力を強化してきただろう。
 そこでまず、トランプ外交をどう読み解くか。外交方針は以下の4つのキーワードで象徴される。①取引の技術である「The Art of the Deal」(トランプ自伝)、②予測不可能な行動を意味する「Madman Theory」(ニクソン理論)、③トランプ氏の奔放な言葉を周辺が辻褄合わせで浄化する 「Sane-washing」(FT紙コラムニストのギデオン・ラックマン)、④脅しをかけるが、最後は腰砕けで破局を避ける「TACO=Trump always chickens out」(R.アームストロング&G・ラックマン)」―だ。
 第2期トランプ政権は、忠誠心を重視する側近に囲まれ、第1期とは大きく異なる方針が推し進められている。まず、伝統的な共和党のタカ派は「優位派(primacists)」と呼ばれる。グローバルな米国の優位を追求する人たちで、主に前政権の元国務長官のマイク・ポンペオとか大統領補佐官だったジョン・ボルトン、元国連大使のニッキー・ヘイリーなど。どちらかというとレーガン・リパブリカンの流れを汲む人ただ。第2期政権では排除された。
 もう一つは「抑制派(restrainers)」。本土重視で、伝統的なタカ派に対抗する形で、外国への非介入であり、同盟国に安全保障面での分担を要求する。JD.バンス副大統領や元戦略官のスティーブン・バノンらがこれにあたる。
 この2つをちょうど中和したようなのが、インド太平洋に力点を置く「優先派(prioritizer)」。現在はどちらかというと、優先派がかなり力を増している印象だ。典型的なのが上院議員のJ・ホーリーと、国防次官のエルブリッジ・コルビーらだ。彼らの考えはアメリカも資源には限りがあり、中国の脅威に対しては前方展開を重視しながら抑止していくと考える。昨年末に出た「国家安全保障戦略(NSS)」、今年1月に出た「国家防衛戦略(NDS)」の戦略文書には、それらが反映されていると思う。  
 米国と中国の関係は、表面上は「一時休戦」状態にあるが、根底には覇権争いが継続している。トランプ氏は中間選挙を視野に入れており、習近平氏は 2027 年の共産党大会での 4 選を目指すなど、2人の指導者には明らかに異なる時間軸がある。習近平体制は不安定化の兆候を示しており、軍部の粛清や権力基盤の弱体化が報告されている。これが米中交渉に影響を与える可能性がある。
 高市首相は3月中旬の訪米について、2月18日の記者会見で、自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIP)をトランプ氏との間で詰めていきたいという趣旨の発言をしていた。注意すべきは、トランプ第2期政権の外交が、安倍政権時代とは大きく異なっていることだ。トランプ氏の口からは「自由」や「民主主義」といった言葉がほとんど聞かれない。高市首相がFOIPを掲げ続けることは重要だが、訪米時に「ルールに基づく国際秩序」という言葉は禁句であると心得ておくべきだろう。というのも、今回の国防戦略では、この概念が「幻想」であると明記されている。むしろ、トランプ氏が好む言葉として「ゴールデン・エイジ」「グレイト」といった表現を活用し、「日米同盟の黄金時代」や「偉大な日米同盟」といった「トランプ語」を使うことが有効である。ただし、国益に合わないものには確実にレッドラインを引いて、そこから譲らないことが重要だ。
 高市政権が最優先では対中抑止力の強化であり、習近平政権からの言われなき圧力は、むしろ日本が結束し、自立へと向かう戦略的好機であると考えた方がよい。国家情報局・対外情報庁の創設やスパイ防止法制定、防衛産業と技術基盤の強化、非核三原則の見直し、そして憲法改正で9条2項の削除に手を付けるまたとない戦略的好機を迎えたのだ。
 
テーマ: 総選挙後の高市外交
講 師: 湯浅博氏(産経新聞特別記者)
日 時: 令和8年2月19日(木)14:00~16:00
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