中国、インド、パキスタンの各日本大使館で専門調査員として勤務した経験を持つ笠井亮平氏が「日本とインド、『特別』で『戦略的』で『グローバル』な関係を築くために必要なことは何か」と題して講演した。
笠井氏は日印関係の発展について、2000年の森総理訪印時の「日印グローバル・パートナーシップ」から始まり、2006年に「戦略的」が追加されて「日印戦略的グローバル・パートナーシップ」となり、さらに2014年のモディ政権発足直後の日印首脳会談で「特別」が付け加えられて「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」となった経緯を説明。また、7月の高市首相の訪印では、経済安保協力に関する共同宣言が最も注目される成果との認識を示した。
一方で、引き続き協議を要する課題として、高速鉄道建設問題が10年近く経っても部分開業すらできていない現実、日米豪印「クアッド」サミットが2025年に開催できなかったこと、日系企業のインド進出数が1400社前後で足踏み状態にあることを指摘した。また、インド北東部での首脳会談が2019年の安倍首相に続いて、今回の高市首相訪印でも見送りになった点についても言及した。
インドの外交政策については、その特徴となる非同盟の概念について詳しく解説した。1950年代のネルー首相時代の伝統的な非同盟運動から、現在の「戦略的自律」、さらに「多角連携(マルチアライメント)」への発展を説明。1971年のソ連との平和友好協力条約を例に、建前としての非同盟と、実態としての限りなく同盟に近い関係の使い分けを指摘。現在のインドは特定の国との同盟関係を避けながら、その時々のテーマごとに複数国との連携を行うことで国益を最大化しようとしていると分析した。米印関係についても、1998年の核実験後の制裁から数年後の原子力協力までの関係変化の例を挙げた。
こうした外交姿勢の背景として、古代インドのカウティリヤの「実利論(アルタシャーストラ)」に基づくマンダラ的世界観が現代インド外交にも影響していることを論じた。自国を中心に隣国、隣国の隣国、さらにその外周へと同心円状に広がる世界認識について説明し、これが現在のインドの「拡大近隣」政策に反映されていると分析。具体例として、パキスタンとの対立を有利に運ぶためのアフガニスタンとの関係強化を挙げ、昨年からインドとタリバンの距離が急速に近づいていることを指摘した。ジャイシャンカル外務大臣の「フレネミー」概念についても言及し、完全な友人も敵もいないという現実主義的な外交観を紹介した。
笠井氏はインドの台頭に伴う自信の高まりが様々な分野に表れていると指摘。「バーラト」という国名使用が増えていることについて、単なる自国語への変更以上に、古代インドの理想化された時代への回帰願望が込められているとみる。2023年のG20サミットでの「バーラト」使用を例に挙げ、イスラム王朝やイギリス植民地時代以前の「純粋な」インドへの憧憬が背景にあると述べた。「民主主義の母」論についても、インドが西側だけでなく独自の民主主義のルーツを持つという主張を国際的にアピールしていることを紹介した。モディ首相が国連総会でもこの概念を発信していることから、対外的な影響力拡大の意図があると分析した。